日頃信じている科学知識なんてものは、あまり正確ではないことが少なくない。
勝手な思い込み。
テレビのSFドラマの見過ぎ。
単なる勘違い。
など様々だ。
時々こどもに、
「ねえ、○○って何?」
などと訊ねられると大人としてのプライドが作動して知りもしないのにいい加減なことを答えてしまいそうになることがある。
事実、私も娘が小学生の時はある程度想像で答えることも少なくなかったのだが、それが中学生になり、今のように高校生になるとそういうインチキは通用しないので分からないことははっきりと分からない、と答えることにしている。
尤も、高校生の学ぶ化学や物理というものは非常に難しく、学生時代が遥か彼方の自分の歴史の一部になってしまっている現在、その質問に対する答えを絞り出すことは困難だ。
とは言え、科学の世界には未だに答えの導き出されていない様々な謎があるのは確かだし、「もしも....だったら、どうなるの?」という仮定を立てることは無数にあるわけで、それらの答えもなかなか難しいものになること、これ間違いない。
ランドール・マンロー著「ホアット・イフ?:野球のボールを拘束で投げたらどうなるのか?」(早川書房刊 吉田三知世訳)は、数多くの「もし○○が△△したらどうなるのか?」という科学の質問に対して科学ライター兼マンガ家の著者が真面目に応える科学読本だ。
もともとインターネットで「What If?」というサイトを開設し、そこに寄せられる様々な疑問に対して回答していったものを抜粋し、集めたのが本書だという。
例えば表題になっているように野球のボールを光速で投げたらどうなるのか?という質問がある。
そもそも野球のボールを光速で投げることは現在の技術では不可能。
でも、「もし」もできたとしたらどうなるのか、というのは科学好きで想像好きな人には興味ある質問だ。
本書では光速で投げられたボールは空気を圧縮して、その空気は逃げ場を失いプラズマ化し、巨大なエネルギーとして野球場だけではなく周辺の広大なエリアを火の玉に変えてしまうようなことが書かれていた。
実際にそうなるのかどうかは不明である。
あくまでも著者が持つ物理に関する知識を総動員した結果の答えである。
本書にも、
「この本に書かれている答えが必ずしも正しいとは思わないでください」
というようなことが書かれていた、
この光速に限らず、光よりもずっと遅い宇宙船の大気圏突入速度でも空気によるプラズマ化は発生している。
宇宙船が大気圏に突入すると空気に衝突する部分が高温になり一時的に宇宙船全体をその熱で包み込む。
私はてっきりそれは宇宙船と空気が高速で触れ合うことによる摩擦熱によるもの、と勝手に思っていたのだ。
でも本当は宇宙船が秒速5kmという猛烈な速度で大気圏に突入するため、宇宙船の空気にぶつかる先端部に対して、空気が逃げることができず、圧縮されプレズマ化することにより高温になるという。
本書を読むまで、摩擦熱だとばかり信じていた私は、この少々笑いも伴う科学読本を読んで初めて知ることになったのだった。
その他、地球の半径が毎日1mmづつ大きくなったらどうなる?とか、太陽が突然消灯しまったらどうなる?などという仮定の元に、そのメリットとデメリットが記されていて大いに笑えるやら感心するやらでかなり楽しめた。
あえて欠点を上げると、質問に対して十分に答えずマンガでごまかしているところが少なくなかったのが少々気に要らないのだが、それはそれ。
こういう科学本もありかなと思える科学エンタテイメントなのであった。
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