萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

山歩雑談:山岳遭難事故の継承×警鐘

2017-02-17 23:52:05 | 解説:用語知識
目的は?



山歩雑談:山岳遭難事故の継承×警鐘

先週、阿弥陀岳@八ヶ岳で早稲田大学ワンゲルでの遭難事故がありましたけど、冥福を祈ります。

ご遺族は悲しんでおられるだろうと想います、
それでも大学に入ったら山岳部いくぞーなんて学生もいるかなと。
だからこその事実提起なんですけど、

この大学は遭難事故もう何度目ですか?

早大は山岳系サークル複数ある×伝統があり、ワンダーフォーゲル部も探検部も有名です。
早稲田に限らず山岳部の伝統校はいくつかあります、東大や京大、明治大・日大も有名です。
今はホームページを開設しているとこ多いですけど、閲覧してみると温度差がけっこうあります。

○山岳遭難事故を起こした経歴を明記しているところ、
○山の危険性をきちんと記しているところ、

こういうところはイイなって思います、
山は危険が当たりまえ、そこで何十年もサークル部活動やってりゃ事故事例もある、
その事実をきちんと挙げて分析してこそ、次の無事な山行ができるってもんです。

逆に、
過去の事故=いわゆる負の遺産を明示していないところは、危険だなーと。
すべき反省をきちんと継承する気がない、っていう伝統があるのかな?と。

そーゆー危険サークル減ってほしいし、
そういうとこで犠牲になる学生はゼロになってほしい、
なんてことを想うので、某大学の山岳系サークル実例を↓



東京都の山岳地域・奥多摩を管轄する警察山岳救助隊は青梅署と五日市署です、
その青梅署副隊長手記に・ある大学の遭難事故について書かれています。

平成14・2002年5月11日 雨降谷滑落 W大学探検部1名死亡
平成14・2002年7月14日 真名井沢転落 W大学ワンダーフォーゲル部1名重傷

同じ年に同じ大学、たった2ヶ月後に遭難事故が起きました。
2件とも遭難者はサブリーダーを務めていた学生です。

5月の滑落死亡事故は、沢登りで滝を超えるときに起きました。
考えられる原因は二つ、

○セルフビレーの欠略。
○全員が初めての沢でルートを知らず、危険ルートを登ってしまった。

7月の転落事故も沢登り目的で、沢源頭部の岩場を40メートル転落。
頭蓋骨骨折・脳挫傷・脳内出血・脳膜外出血と厳しい容体でした。

○読図上のミス、等高線で判断できる安全ルートをとらず急峻なルートを選択した。
○ザイルで懸垂下降すべき場所でそうしなかった。

上記2件には共通点があります、
1)遭難者はサブリーダー。
2)読図・ルートミス+ザイル欠略=初歩的ミスが原因。

この2点から考えられることは、
○部活サークルOBが初歩的安全策を教えていない。
○リーダーおよびサブリーダーを担える人材が育っていない。

初歩的安全策を徹底することは、登山の基礎です。
怠れば危険が起きてアタリマエ、それは標高にカカワラズ同じこと。
実際・上2件も標高1,000メートルない地点で遭難しています。

奥多摩はこーゆー初歩ミス遭難が多いです。
ってことから考えても、

標高が低い=油断する、

っていうのが一番の遭難原因かな、と。
トコロガ山は油断禁物!油断したら遭難するのが山です。
転落も滑落も足場不如意、足元の不注意や装備不足・ザイル欠略など油断が原因。
登山靴の紐やアイゼンのベルトを締めなおそうとした瞬間、風にあおられ滑落ナンテコトも珍しくありません。

たった一瞬の油断が死、そのリアルは低山でも高山でも同じです。

なんですけど、
じゃ・上2件の事故を起こした大学はドースリャ良かったのか?

1.同じ大学内で別サークルが起こした遭難事故を「他人事」にしない。
2.遭難事故を分析し改善策をうちだす・実行する。
3.別サークルでも情報共有をする。
4.登山に関わるリスクを周知徹底する。

なんてことをしないと、また繰り返すのではないかな?と。

厳しい直言すれば・・・
同じ年たった2ヶ月後にサブリーダーが遭難事故、っていうのはカナリ運が悪いorカナリ低レベルのどっちかです。
別サークルでも同組織内=根源的意識に問題と思うしかないなあと。

もし「運が悪い」なら、
「あ~これは登山しちゃいけないって運命なんだな俺、」と辞めること。
実際・遭難したら山を辞めようと決めている人もいます、ソレも山好きの在り方だろうなと。
もし「低レベル」なら、
「あー技術ちゃんと身に着けてから登ろう、」と努力ちゃんと積むこと。
どんなトップクライマーも「まだ自分は技術不足だな」っていう自己認識から努力がスタートしています。
そういう謙虚な分析力は山を登るイチバンの素質かもしれないです。

とにかく山は「無理をしない」が鉄則、
技術を無理しない、
計画を無理しない、
天候を無理しない、
体調を無理しない、
ってことを客観的に謙虚に分析しながら山を歩く、
この無理をドレか一個でもすれば遭難事故は起こります。

こーゆー分析&山行反省&徹底をしない山岳部サークルは信用NG、
特に大学パーティー遭難事故は「計画・天候」を無理した結果が多いです、
大学の講義とかバイトとか予定があるから~って無理しちゃうんでしょうけど、
毎年何件も大学生の遭難事故が起きていることを軽視しないでください。



大学の遭難事故は表沙汰になっていないものも多くあります、大学イメージのマイナスになるためでしょうか?

上にだした実例も「w大」と伏せられて大学名は公表していません。
多分ココだろなーって大学サークルのHPにも遭難事故について全く触れていません。
上2件は奥多摩で起きていますが、奥多摩の遭難事故は多発すぎてニュースに載らないんだとか。
丹沢も同様・なかなかニュースになりません。

なので思うんですけど、
ニュースにならないのにHP上きちんと明記しているところは信頼性が高いなーと思います、
遭難事故を起こして、それについて改善しているからこそ明示する自信もあるのかなと。
もし、
「山は遭難してもアタリマエ、その危険を遊びに行くのだ」
なんて謳う先輩OBがいたらその山岳部サークルはレッドカードで、笑
登山の最大目的は危険遊びでもピークハントでもありません、無事に山を歩き無事に下山することです。

無事に登り無事下山、

だから山は「他人に迷惑をかけない=遭難しない最大限の努力をする」があたりまえ、
まず自分で出来ることはすべてやる、それが山の大原則「自助&相互扶助」です。

明日の天候は冬に逆戻り、
今日の気温で緩んだ雪は再凍結→がちがち硬いアイスバーン化で滑りやすいと思います。
アイゼン・ピッケル・ストック+足先指先まで防寒しっかりで、強風低温ゼッタイ無理せず楽しんでくださいね、

もちろん受験生は勉強してくださいね?まず入試の山を登ってください、笑


撮影地:富士山@山梨県吉田口、三頭山@東京都檜原村、北奥千丈岳@山梨県
【参考文献: 金邦夫『山岳救助隊日誌』】

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第85話 春鎮 act.17-another,side story「陽はまた昇る」

2017-02-17 23:30:41 | 陽はまた昇るanother,side story
Hold me, Hold onto hope.
harushizume―周太24歳3下旬



第85話 春鎮 act.17-another,side story「陽はまた昇る」

繋いだ手そっとほどく、ちいさな手に受験票一通。
紅い頬の横顔は掲示板を仰いで、瞳そっと瞑った。

「…、」

唇ちいさな声、人波に喧騒に聞こえない。
彼女の独り言、それは祈りの声だろうか?
想い見つめて、それから周太も掲示板を見た。

「…あ」

記憶の番号なぞる、確かにそうだ?
そのあるべき場所を見つめて隣、ちいさな声こぼれた。

「あった…」

番号ふるえる声、ちいさな、でも澄んだ声。
キャンパスの片隅に掲げられた番号表、その一点に周太はふりむいた。

「美代さん、おめでとう、」

言祝ぎたい、今はただ。
だって努力を知っている、どれだけ彼女は懸けてきた?
積まれた時間は出会う前からで、その瞳から涙こぼれた。

「…ほんとに…わたし」

ソプラノかすれて涙になる。
澄んだ瞳あふれて光こぼす、紅い頬きらきら軌跡ひく。
腫れた左頬に涙やわらかい、きらめいて零れて瞳は泣いた。

「私、ほんとに…?ゆはらくん、ほんとにわたしっ…」

ほんとに、本当に?

くりかえして涙こぼれる、紅い頬を光つたう。
涙の底まっすぐ見つめる瞳に周太は深く笑った。

「ん、本当だよ?美代さんの受験番号ちゃんとある、合格おめでとう、」

努力が実る、そんなことばかりじゃない。
そのままに彼女の左頬は紅い、ひっぱたかれた痛みの痕だ。

『こんな齢から大学なんてバカだ、婚期逃すぞ親不孝者って…叩かれたの、』

話してくれた彼女の現実は「今時」じゃないかもしれない。
時代錯誤と笑う人もいるのだろう、それでも彼女に壁は現実たちはだかる。
そうして紅い頬は腫れる痛覚だけじゃない、責められ否定された努力の疼きだ。

「おめでとうって…よろこんでくれる?ゆはらくんは、」

紅い頬が訊く、澄んだ声が問いかける。
こんなこと普通なら訊かないだろう、けれど訊かずにいられない痛みに肯いた。

「ん、僕はすごく嬉しいよ?美代さん合格おめでとう、」

肯いて笑って断言する、だって本当に嬉しい。
この先が見えなくても喜びは真実だ、その想いに微笑んだ。

「おもいっきり喜んでいいんだよ美代さんは、それだけ頑張ってきたよ…だから、胸張って笑って美代さん?」

社会人で24歳、女性、進学を理解しない家族。
それでも働きながら勉強を続けてきた、その時間まっすぐ笑いかけた。

「美代さん、難関突破おめでとう!」

難関だった、今ここにいる誰よりきっと。

それくらい今この大学は「選ばれた」人間だけが二次試験を受け、合格つかむ。
それだけじゃない関門も破る彼女を讃えたい、素直な賞賛にフラッシュ瞬いた。

「合格おめでとうございます!」

え、なにこれ?

「合格したんですよねっ、お話しいいかなっ?」

驚いた視界にフラッシュ弾く。
向けられたカメラとマイクに紅い頬が途惑う、ちいさな手が縋る。
縋る瞳も困惑して、それなのにマイクまっすぐ彼女に向けられた。

「おめでとうございますっ、どこの学部志望ですか?」

なんでそんなこと訊いてくるの?
そんな瞳がこちら見あげる、その横からマイク向けられた。

「君は余裕あるよね、もう前期で合格してるのかな?」

え、僕にまで訊いてくるの?

「一緒に合格発表なんて仲いいんだね、受験も一緒に?」
「同じ高校なのかな、それとも君は在学生?」

質問フラッシュぶつけられる。
とまどって途惑って、ちいさな手そっと腕ふれた。

「…ゆはらくん、なにこれ?」

ちいさな声が見あげて縋る。
どうしよう?そんな瞳の横からマイク向けられた。

「彼氏彼女で合格っていいね、今日から東大カップルだね?」

は?

「…」

言われた言葉に止まる、なに言っているんだろう?
向けられるマイク見つめて呼吸して、状況に訊いた。

「あの…これニュースになるんですか?」

そういえばこの時季、こんなニュースよく流れるな?
記憶ゆっくり落ち着いた視界、カメラとマイクが答えた。

「そうです、今もう中継しているんですけど大丈夫かな?」

大丈夫、だろうか?

ためらい瞬いて昨日が戻る、昨日に知ったこと。
迷惑をかけるだろうか?

『湯原の退職は体調不良を表向きの理由にする、だから退職手続も本人は来られない、』
 
昨日ちいさな部屋で告げられた配慮、それを裏切ることかもしれない。
今ここで中継カメラに映されて、それが今どんな「次」を連れてくる?

それとも「何も」起きないだろうか、伊達が告げたように?

『あのひとのサシガネだよ、もう二度と警察とは関わらせたくないそうだ、緊急措置も辞さないとな?』

あの言葉そのままなら今、こんなふう映されても何も起きない。
そんな状況なのか試験紙になりうる?

―おばあさまの意思がわかる…?どんな力を持ってるのかも、

いつも優しい大叔母、けれど直截な性格と知っている。
あの率直が理性コントロールして自分を匿う、その砦もテレビカメラは壊す?
そうなれば困らせるのだろうか、母も困るだろうか、それもこれで解るかもしれない?

それに、あの名前も。

『違反しても辞めさせられない権力があるってことだ、鷲田という名前にはな、』

名前、どうして、あなたは何も言ってくれなかった?

―逢いたい英二、でも…もうあわないほうが、いい?

あなたは来ない、携帯電話も繋げられない。
もう誰にも望まれていない自分の想い、それくらい解っている。
それでもあがく一通すら返らなくて、それに本当は解っている。

『男の愛人は邪魔な立場になったんだ宮田は、』

ほら昨日の言葉くりかえす。

あの言葉ほんとうは解っていた、ずっと前から最初から。
初めから誰にも望まれていない恋、そんなこと知っている、解っている。
それでも声になれば穿たれる、痛い、苦しい、解っていても疼かされる。

それでも、ああどうか、どうかもう一度だけ。

「君?テレビに映るのマズかったかな?」

マイク突きつけられる、視界が瞬く。

「あ…、」

フラッシュ遮られた思考が今を見る。
引き戻される、今、自分がいるべき場所。

―英二だけじゃないんだ、僕がいる場所は…行くべきところは、

あなただけ、そう世界を抱いていた。
けれど今は違う、もう進むべき先がある、望まれる場所が。
どうして今ここに何のため自分がいる?そして隣の手そっと掴んだ。

「…行こう、美代さん?」

だって今、この手を連れてゆく場所がある。
掴んだ現実に綺麗な瞳が見あげた。

「行くって…ゆはらくん?」

どこへ行くの?

途惑う瞳に声が戻る、さっき彼女は言っていた。
今日のために後悔しないと言った、彼女の涙は。

『だからもう帰るとこないの私、でも…後悔しない、』

ほんとバカだけど、泣くけど、でも後悔しない。
そう言いながら泣いていた、あの涙は自分も同じだ。

同じだ、だから手をつないで歩けばいい。

「行こう?一緒に、」

微笑んで掌さしだして、ほら、視界がにじむ。
見つめる瞳も赤くにじんで、その左頬も腫れて紅い。
ふたり無傷じゃ選べない道、それでも行きたい先へ手をつなぎ、駆けだした。

君も泣く、僕も泣く、それでも行きたい生きたい場所へ。

(to be continued)

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