萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

secret talk30 凍夜の森―dead of night

2017-02-23 23:54:20 | dead of night 陽はまた昇る
Of Elements, and an Angelic sprite,
英二side story予告編@第85話+XX日



secret talk30 凍夜の森―dead of night

零下、星が鳴る。

「ほんと、寒いですね?副隊長、」

雪に若い声が呼ぶ、その肩書に懐かしむ。
この声ずっと昔は自分だった、それとも近い昔だったろうか?

「うん、薪くべるか、」

微笑んで腕伸ばし、からん、薪放って火の粉舞う。
散りばめる朱色に炎たつ、ふれる雪が光って溶ける。
凍てつく梢も朱色ゆらぎ映えて、きらめく熱に青年が笑った。

「副隊長は本当にコントロールいいですね、噂の達人技を見せてもらいました、」

若い声が笑う、その笑顔きらめく炎に眩い。
はじける若さ瑞々しくて、懐かしく笑いかけた。

「俺より達人はたくさんいるよ、最初は酷いもんだったしな?」
「ひどいって、誰でも最初は難しいですけど。副隊長がって意外ですね?」

声に火花ぱちり炎まぶしい。
青いウィンドブレーカーも緋色ゆれて、あざやかな火影に唇の端あげた。

「意外って小林、そんなに俺を持ち上げても訓練の手加減しないぞ?」

そんなつもりじゃないだろう、この律儀な青年は?
解っているけど揶揄った火端、雪焼けの瞳が訊いた。

「訓練は厳しいほうが望むところですよ、副隊長の最初ってどんなだったんですか?」

ぱちり、炎舞って質問者を照らす。
その瞳まっすぐ若くて、こんなふう自分も見られていたろうか?

―俺も後藤さんに同じこと想われてたのかな、あのころ、

懐かしい名前に遡る、時が戻る。
あのころの自分が炎に映えて、遠い幻に笑いかけた。

「なんにも知らなかったよ、山のことも何もかも、」

本当に、おまえはなんて無知だったろう?

今の自分がおまえと逢ったら、きっと「めんどうだ」と思ってしまう。
それなのに面倒を背負ってくれた人がいた、その時間が問いかける。

「何も知らないって、副隊長は箱入り息子ってやつですか?」

笑いたくなる、言われた言葉が可笑しい。
可笑しくて懐かしくて、懐かしい名前と笑った。

「箱入り息子って国村さんに笑われてたよ?あんな俺を後藤さん、よく入れてくれたよなって思う、」

笑うどころか呆れていた、あの男は。
それでも信じてくれた、そして今こんな凍夜もビバークできる。
想い頬ふれる冷厳に熱が舞う、温もり懐かしい名前に青年が訊いた。

「国村さんって、警察医の国村先生ですか?」
「そうだよ、俺が卒配されたとき先輩だったんだ、」

答えて焚火に昔きらめく、初めてビバークした夜が舞う。
あのとき共に笑った時間を若い声が尋ねた。

「元警察官で山岳救助隊だって聴いたことありますけど、あれ本当なんですか?」
「本当だよ、警視庁山岳会のエースだった人だ、」

微笑んで雪の梢きらめく。
炎ゆれる緋色に樹氷は白い、あの雪白にザイルの記憶たどらせる。

「なんにも知らない俺に山を叩きこんだのは国村さんだよ、あの人の真似して盗もうって俺も必死だった、」

登山靴を追う、あの歩き方。
歩調、足場の選び方、足の下ろし方と上げ方、そんな全て盗んだ。
いつも必死で、それでも楽しくて、そうして座る冬の森に訊かれた。

「じゃあ副隊長、山を始めて一年ちょっとでアイガーとマッターホルン行ったってことですよね?怖くなかったですか?」

怖い、そう考える人もいるだろう?
あらためての質問に懐かしく笑った。

「怖いより嬉しかったよ、何も知らないくせに自信過剰だったからな?国村さんのザイルパートナーに選ばれて有頂天だった、」

あれっぽちの山歴で、あんなことよくやったもんだ?

―今の俺ならやらせるかな、あんな初心者に?

古い時間つらつら考えこむ。
あんな決断を自分ならできるだろうか、それだけの精神力は?
たぐらす想い爆ぜる焚火の時間、凍れる白銀あおいで訊かれた。

「嬉しいって俺もわかります、でも止められませんでしたか?家族とか、カノジョとか?」

鼓動そっと敲かれる、言葉に。

「うん…そういうの俺はいなかったかな?」

答え微笑んで鼓動が軋む。
あのとき自分が犯したこと、傷と瑕、壊したもの。
本当に「何も知らなかった」そんな痛みに青年が訊く。

「いなかったって、副隊長のご家族は法曹関係って伺いましたけど…?」

ああ、もう聞いているんだ?
いつもながら速い情報網に微笑んだ。

「うん、そのころ家族と上手くいってなかったんだ、」

本当に自分は何も知らなかった、家族のことも。
懐かしい痛みに若い瞳ゆっくり瞬き、隊帽とり頭下げた。

「すみませんでした、立ち入ったこと訊いて、」

本当に申し訳ないことをした。
そんな下げられた頭に申し訳なくなる、その程度のことに笑いかけた。

「いいよ、たいしたことじゃない。それでも気にするなら缶コーヒーでいいぞ?」

笑ってコーヒーの香なつかしくなる。
ほろ苦い甘い馥郁いつも大切だった、懐かしいまま青年が言った。

「下山したらおごります、でも缶ビールじゃなくていいんですか?」

あ、そういう評価なんだ?
また可笑しくて、つい笑って乗っかった。

「缶ビールでも歓迎だけどな、小林それも聞いてるのか?」
「はい、藤岡さんと原さんが教えてくれました、」

素直に頷いてくれる名前にまた可笑しい。
懐かしい時間と雪の星ながめて、ふっと青年が口開いた。

「でも、カノジョいなかったって信じがたいですけど、」

その話また戻るんだ?
火の粉ぱちり爆ぜた熱、若い眼まっすぐ言った。

「バレンタイン毎年すごいって聞いてますよ?ポスターのイケメン警官がモテないはずないし、カノジョじゃなくて恋人ならいたってことですか?」

そんな話まで聞いているんだ?
こんな新隊員の言葉また笑いたくなる、つい笑いながら口開いた。

「小林、刑事も向いてるんじゃないか?」

【引用詩文:John Donne「HOLY SONNETS:DIVINE MEDITATIONS」】

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花森日記:如月、花散らす風

2017-02-23 11:26:05 | 写真:花木点景
このあたり河津桜カワヅザクラ満開、
まだ風冷たい二月、薄紅の万朶は春灯して明るいです。
なんですけど・ココントコ強風=春一番ナンバリング中、で、散る前の満開を↓笑



これ撮っているとき、

もう桜が咲くんですねー、

と驚いている何人にも声かけられました、笑
よくある染井吉野ソメイヨシノが4月なので桜=春爛漫のイメージありますけど、
桜は品種多種多様・かわりばんこに開花期が訪れるため、年中ほとんど花が観られます。
寒期の桜なら、秋十月に咲きだす十月桜、真冬一月から咲く寒緋桜などなど。
河津桜は立春すぎ2月半ば、早春さきがける桜です。

っていう会話を毎年ここでします、笑



今日は薄墨色の空×強風、花散らしの風になるんだろうなーと惜しくなります。
それでも蕾には花誘う風、そして来春また。


休憩合間に花見で一息、笑
季節の彩り 55ブログトーナメント
今夜は第85話の続きUP予定、Aesculapiusも校了させたいとこです。
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