萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

長月四日、蓮華升麻―noble

2018-09-04 19:32:00 | 創作短篇:日花物語
つむぐ絲、
9月4日の誕生花


長月四日、蓮華升麻―noble

糸車めぐる、ゆれる花。
この掌に時めぐらせて。

「んしょ…」

かたたん、たたん、

掌すべらす軋み、空気やわらかに敲く。
静謐ひそやかな響き肌ふれて奔って、もう一つの指さき紡がれる。
さらさら肌すきま滑らせて紡がれて、艶やかな光きらきら軒端の霧はじく。

「…、」

沈黙おだやかな糸の音、めぐる木枠からから光つむぐ。
きらきら艶めく光縒る、この光あつめて織るなら透ける衣がいい。

「よし、」

かたたん。

止めて糸車、紡がれ終えた光あわい。
ダークブラウン渋い艶に古びた木枠、けれど巻かれた光なめらかに瑞々しい。
この光そのままに織りあげたなら?願い見つめる縁側、足音かろやかに呼ばれた。

「やあっと終わった、器用なもんだな?」

とくん、

声に鼓動つむがれる、波を敲く。
この声いつも響く胸ふかい底、息ひとつ見あげた。

「いきなりなに…帰ってきてたんだ?」

仰いだ軒端、霧やわらかな輪郭が笑う。
その気配ずっと知っている、けれど声は前より低い。

「いきなり帰ってきたよ、こっちは涼しいしさ?」

低い、けれど闊達な声かろやかに胡坐かく。
あわい霧ひそやかな香りだす、ふかい渋い甘い、よく知った匂い。
香なつかし輪郭ひそやかに霧を透く、その顔に瞬いた。

「すごいね…ひげ、どうしたの?」

日焼あわい顔、口元ざらり黒ちりばめる。
こんな無精ひげ大丈夫だろうか?心配に青年は笑った。

「寝坊して剃りそびれた、」
「ねぼうって、一晩でそんなにならないでしょ?」

呆れて見つめる真中、黒い瞳が笑って顎なでる。
なでる長い指ふれる輪郭シャープで、前より鋭くなった。

「もちろん一晩じゃないよ、3日ずっと徹夜の連勤だったからさ?」

闊達なトーン低い声、なんでもない眼で笑ってくる。
けれど言葉は「なんでもない」と思えなくて、呆れたまま声がでた。

「それって、ずっと寝てなかったってことでしょ?それで帰ってくるのに運転したってことでしょ?」
「ちゃんと寝坊したって言ったろ?俺もそこまで無謀じゃないし、」

無精ひげ笑って黒い瞳ほそめさす。
その口もと知らない貌、けれど変わらない眼ざしが糸車ふれた。

「あいかわらず織物やってんだなあ、若い男がって珍しがられてんだろ?」

低い声あざやかな視線が自分に笑う。
この眼ざしは自分が知らないものを映している、そんな想い唇ひらいた。

「そっちこそ僕には珍しいから…都会とか大きな病院なんて想像できない、」

年経た糸車、星霜つやめく縁側、庭あおぐ古木の霧。
道に会う人は知人ばかり、静かな穏やかな山里の単調な平和な日々。
そんな世界しか自分は知らなくて、けれど未知を生きている声は言った。

「そっちこそだろが?そんな草の繊維から布を考えて作るとかさ、俺ぜんっぜん想像できないよ?」

ほら?懐かしい声が笑ってくれる。

前より低くなった声、でも懐かしい唇つむぐ言葉。
右端ちょっと上げた唇あざやかな言葉、なつかしくて呼吸ほっと緩んだ。

「なんか変わらないんだね…前と同じこと言ってる、」

大きな町の大きな病院、未知の世界で生きる君。
そんな「知らない」が不安だった再会は、低い闊達な眼で笑った。

「また同じこと訊くけどさ、この糸はどんな布になるんだ?」
「夏ものにするよ…透ける軽い布、」

答えながら見つめる糸、なめらかに光あわい。
この光あつめ織りあげられたなら?描くまま幼馴染は言った。

「衣通姫の衣だな、」

ほら聴こえてくる、懐かしい微笑。
やさしい瞳きらきら黒く澄んで、そのままに明眸きらめく。
この眼ざし繰り返し想いだして、つむがれるまま微笑んだ。

「うん…衣通姫の衣をつくりたいんだ、」
「おまえならできるよ、小学校の卒業文集もソレだったろ?ばーちゃんみたいな伝統工芸士になるってさ、すごいよな?」 

からり笑って無精ひげの顎、前よりシャープなくせ幼くなる。
この笑顔また遠くへ行ってしまう、それでも今この再会に笑いかけた。

「すごくないよ、僕は…祖母はすごいけど、僕はまだまだで、」

布ひとつ、まだ何者にもなれない自分。
それでも追いかけたい図柄がある、願い描く糸車に訊かれた。

「この糸も織るんだろ、模様はどうするんだ?」

なつかしい声が訊く、あの時みたいに。
なつかしい瞬間の再会ちょっと可笑しくて、笑って唇ひらいた。

「卒業文集に書いた紋様を…今回、はじめて織ってみようと想ってて、」

幼いころ、祖母の手仕事ながめて描いた図柄。
あのままに今なら織れるかもしれない?ながめる縁側の先、花ゆれて声が笑った。

「そっか、雨が上がったら一緒に行くか?」

とくん、鼓動また波うちだす。
こんな言い方に期待する、そんな真中で黒い瞳が言った。

「さっき見てきたんだけど俺んちの山、今ちょうど盛りでさ。見本に一本は欲しいだろ?」

あかるく低く透る闊達な声、その言葉に幼い文字が映る。
もう遠い時間の文字たち、けれど見つめられて問いかけた。

「あの…文集に書いたこと憶えてるなら、貴重な花だってわかってるよね?」
「貴重だから、おまえに一本やるんだろ?」

闊達な声ふかく澄んで笑う、その言葉が遠い約束なぞる。
もう遠くなった卒業文集と約束の花、そうして紡ぐ願い君が笑った。

「だから山に咲くよりキレイに織れよ?」

ほら響いてくれる、なつかしい微笑。
やさしい瞳きらきら黒く澄んだ、あのころのまま明眸まぶしい。
こんなふう笑ってくれたから今、自分は昔のままここにいる。

だから織るのなら、この瞳が称える花がいい。


蓮華升麻:レンゲショウマ、花言葉「伝統美」

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休日雑談、雨にて

2018-09-04 10:44:30 | 雑談
台風予報の今日、火曜だけど休日で。
休みだから山ちょっと行けたら嬉しいんだけど、今日この天候に登るのは無知ダイメイワクヤロー笑
そんなこんな家のんびり休日になるだろなーと、昨日は帰り道ちょっと買物したからインドアの朝で、
そんなこんな庭の雨でも撮ってみたり、
撮影地:雨の庭@窓から


愛知産の大シジミ(注※あさりサイズ)を泥吐かせ、
今夜は味噌汁だ楽しみだなーとか夕飯のコト朝から考えながら撮ってみたり、
大シジミ愛知産


もう漬かったろうなーと出汁トマト×オレンジミニトマトを盛りつけて、
トリアエズ撮っておこうかとシャッター押してみたり、
出汁トマト庭畑産


そんなこんな休日の朝、
せっかく休日だから昼酒ノンビリしてみたくなりました、笑
っていうナンニモ予定ない休日は自由で、ナンニモナイがなんだか嬉しいプライスレス感。
麒麟麦酒の夏限定ビール


お料理しました 16ブログトーナメント

そんなこんなで小説2つくらいUPしようかなーと・昼寝しすぎない限りは、笑
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