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萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

長月二十一日、犬咱夫藍―invariable

2018-09-21 22:44:31 | 創作短篇:日花物語
かえられない瞬間を、
9月21日誕生花イヌサフラン


長月二十一日、犬咱夫藍―invariable

階段を下りて、エンジン音は遠く風が芳る。
額に頬に冷気なじむ、冷たい芳しい風に息ついた。

「はー…」

肚底から息ついて、鼓動ふかく醒まされる。
澄んだ香やわらかに沁みこんで、薄明の砂利道に黄金が奔った。

「おー…、」

声こぼれて稜線が輝く。
朱色きらめいて黄金になる、光たばねた今日が昇りだす。
墨色の雲まばゆい輪郭ひらめいて朱鷺色そまる、目覚めゆく故郷に微笑んだ。

「まだ夜明けなんだよなあ…」

早暁、高速バスを降りて月が見えた。
その月かすませ黄金ひろがる、夜から今日が覚めてゆく。
黄金さらさら波うつ田園、頬ふれるごと芳しい暁に行く手ながめた。

「もう起きてるかな…こーたろー?」

ボストンバッグひとつ、佇んだ故郷に面影なぞる。
あの笑顔もう起きているだろうか?

『俺は畑仕事、好きだからさ?』

闊達に笑った少年は、今もあの笑顔だろうか?
もっと日焼け鮮やかになったろうか、今も明るいだろうか?

今も、自分のこと笑って迎えてくれる?

「行くか、」

ひとこと微笑んで歩きだす。
置いてきた時間の道まだ蒼い、薄明やわらかな藍色に砂利が鳴る。
レザーソール沁みてゆく故郷の道、一歩ごと呼吸あざやかに冴えて芳しい。

澄んだ風わたる冷たい芳しい、香ふくらむ鼓動に追憶が歩みよる。

『帰ってきたら話、いっぱい聴かせてくれよな?』

砂利の音、芳しい風、なつかしい声が笑いかける。
一歩ごと声が言葉がよみがえる、もう過ぎ去った時間たどらせる。

『都会に染まるとかって言うけどさ、そーなったら帰ってこないだろね?』

君が笑う、闊達な瞳あざやかな黒目。
あの言葉どこか自分を支えて、こうして故郷たどらせる道に薄紅ゆれた。

「お…」

藍色あわい薄明の底、薄紅あわく咲いている。
この花が咲いたら収穫の時だと、あのころ君が教えてくれた。

『でも毒があるから危ないんだけどさ、きれいな花だなって思うよ?』

少年だった君が笑う、すこし困ったような黒目あざやかな視線。
あんなふう今日も君は笑うだろうか、いきなりの再会どんな貌?
こんなふう辿る黄金の時、あの日のまま君が笑ってくれたなら?


犬咱夫藍:イヌサフラン、別名コルチカム、花言葉「悔いなき青春、最良の日々は過ぎ去った、危険な美、回顧、永続」

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天蓋花

2018-09-21 10:29:09 | 写真:花木点景
薄暮里山、やわらかな白ゆれる。
花木点景:白花ヒガンバナ×寺坂棚田


うかんだ白に惹かれてあえてモノクロです、笑
撮影地:埼玉県秩父郡横瀬町2015.9

最近有名になってきた寺坂棚田ですが、
撮影のころは人も少ない里山×彼岸花の空気ひそやかで・って空気感なつかしくなってUPしてみました。
季節の彩り 103ブログトーナメント
※棚田は耕作地であり、遊びが主目的の観光地とは違います。
 来訪するなら指定通路外への踏みこみ厳禁、三脚使用も畔道を痛めるので遠慮がマナーです。
 きれいだから見せてあげますよ?っていう地元の方のご好意に敬意を忘れず楽しまれると、花もよりキレイに写ってくれるかと、笑

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