追いかけて風を、
9月5日の誕生花ススキ
長月七日、芒―wind forces
風の波、銀色白金しぶく涯。
頬ふれて奔る髪、駈ける風圧に山が靡く。
吹あげられてシャツ波だつ、袖はためいて大気が吹き殴る。
駈けあがる雲すりぬける霧、ふれて湿度なぐられ髪に水滴ゆらす。
「…っ、」
声が喉が押される、大気ぶつかる呼吸に軋む。
風圧ひっぱたかれる鼓動、体なぐられる冷気、それでも見あげた涯が青い。
雲おしよせる白い墨の空、それでも遥か青色まばゆくて立ちたくて、踏みだし響いた。
「おーいっ!あぶないぞっそんなかっこでのぼるなあっ、」
背後まっすぐ徹って響く。
どうして響くのだろう?
「風に霧にヤラレルぞっ!体かたまって死ぬんだぞぉ止まれえっ!」
ずしり低いくせ響いて届く、背を敲く。
どうしてこんなに響くのだろう?息つかせない風の稜線、音が奔った。
「まてっぼうずっ!」
肚底どすり響く声、足音がしり腕つかまれる。
シャツ一枚ふわり温もり沁みて、大きな掌が叫んだ。
「これ以上は登るなっ!おまえの体力じゃ死んじまうぞっ!」
怒鳴りつける声ずしり肚に重い、けれど腕やわらかに温もり沁みる。
肌ふれる体温やさしくて、見あげる長身に喉ひらいた。
「だっ…て!登ってみたいんだっ、」
登ってみたい、だから風かきわけ登る。
それだけの理由ただ叫んだ頭上、青年からり笑った。
「あははっ、そりゃそうだよなっ!」
日焼あざやかな破顔、ほころんだ瞳に陽が透ける。
あかるい瞳まっすぐ明るくて、腕つかんでくれる人に訊いた。
「あのっ、おにいさんだって登ってきたでしょ!登りたいからなんじゃないのっ?」
このひとも同じ、だから自分の後ろから登ってきた。
そんな理屈に深緑色の登山ウェアかがんで、明るい瞳すっと覗きこんだ。
「そうだけどさ?ボウズと俺じゃあ、ちょっと違うんだよなあ?」
覗きこんでくる眼ほがらかに笑ってくれる。
風かける草原の山、茶色い髪ひるがえす唇は言った。
「山には登る智恵とカッコと礼儀が要るんだよ、俺はソレ守ってるワケ。でもボウズはどうだよ?」
問いかけ覗きこまれて自分を見る。
シャツ一枚にハーフパンツとスニーカー、それから青年を見た。
「…ぜんぜん僕と違うカッコだね、おにいさん?」
「だろ?俺は山が遊んでくれるカッコだ、」
明るい瞳からり笑って、広やかな肩が登山ザック降ろす。
慣れた仕草すずやかに袋とりだして、ばさりライトグリーン包まれた。
「俺のレインスーツだけど着ておけ、あったかいだろ?体が冷えると動けなくなっちまうんだ、」
響く声に視界ひらけて、首もと留めて袖たたんでくれる。
膝まで包むライトグリーン見つめて、それから青年を見た。
「これって上着だけだよね?おにいさん、僕よりずっと大きいね?」
「だろ?だから俺とボウズじゃ体力ってヤツがぜんぜん違うんだ、わかるだろ?」
慣れた仕草きれいな手、長い指てきぱき身支度してくれる。
またザック軽やかに背負いあげて、まぶしい眼からり笑った。
「だからなあボウズ、おまえが俺くらいデッカクなったら登れよ?山の智恵きっちり自分のモンにして登ってみな、」
さて行くか、
そんな眼が笑って大きな掌、ぽんと差し出してくれる。
広げてくれる手は大きくて、つい見た自分の手に口ひらいた。
「今すぐ登って見たいんだ僕、あそこの空が光ってるのを見てみたい、」
ライトグリーンの腕のばして先、指さして空が光る。
草の穂ゆらす銀の飛沫と白金の波、長身の視線はるかに彼は言った。
「なあボウズ、本気で見たいか?」
「見たい、」
即答に見つめる空、草原の稜線はるか光る。
その願いに茶色い髪ひるがえって、明るい瞳が笑った。
「本気で見たいんならボウズ、時を待ちな?」
低いくせ響く声が見つめる、見あげた笑顔ずっと高い。
見下ろされて、けれど近い視線は微笑んだ。
「登るべき時を待てたヤツだけが、イイ景色ちゃんと見られるんだ。後悔しない瞬間がもらえる、」
大気なぶるライトグリーンはためく、でも風ふれない肌は温かい。
温もり包まれる風の稜線、鳶色の瞳からり笑った。
「時を待つってイイもんだよ?」
時を待つ、そうしたら願いは叶う?
見つめる空はるかな光、さしだされる大きな掌を掴んだ。
芒:ススキ、語源「真直ぐに立つ草」花言葉「活力、悔いなき青春、心が通じる、なびく心」
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