黎闇、暁の頂点へ

第58話 双壁act.7―side story「陽はまた昇る」
マッターホルンの闇に、ハーケンの歌が響く。
銀の星ふる紺碧の夜、はるかな虚空と鋭鋒の壁に金属音の歌が笑う。
その誇らかな歌声に今、偉大な岩壁へとメインザイルを繋ぐ点が刻まれていく。
キンキン、キンッ。
音が止む、そして赤いザイルがグローブの掌から昇りだす。
ザイルが止まり震動が掌の感覚にゆれ、すぐ止まり軽く引かれた。
くん、と掌を震えたザイルに頷き、手元の支点からカラビナを外しハーケンを回収する。
その傍らザイルは動きを伝え送られていく、そのスピードに添うよう英二も三点支持で登りだす。
―光一、順調だな
ゴーグル越しに見上げる岩壁の向こう、ヘッドライトが黒い脚を照らす。
リズミカルに素早い三点確保の遵守に登る、その動きはいつもの訓練と何も変わらない。
ランニングビレイをとって行く手並みは鮮やかで、ルートファインディングにも迷いが無い。
ただ山頂を目指し光一は登っていく、その軌跡に描かれる赤いザイルを回収しながら英二は後に続く。
コンコン、カンッ、キンキン、キン。
ハーケンが高らかに歌い、岩壁に確保支点の楔が不動に撃たれる。
掴むザイルの感触からハーケンにセットされたと伝心して、呼応にカラビナたちを回収していく。
アンザイレンザイルに繋ぐチェストハーネスとシットハーネスに、光一の動きと意志は伝わり英二の動きを決める。
パートナーの確保に徹しビレイヤーとして登っていく頭上、その蒼い闇に沈んだ岩壁は光一の上に誰もいない。
そして下方から響くハーケンの歌は、遠い。
―トップだ、完全に
よぎる想いにすぐ意識を掌と足に戻す。
ザイル越し伝わるパートナーの意志、誇らかに降るハーケンの歌とメインザイルの手応え。
言葉も会話も無いまま、けれど確実な意志疎通にスピードを緩めず登っていく。
いま夜明前の黎明時、最低気温に到達する大気に岩も氷も安定している。
この冷気を味方にしたまま登り終える、それが登攀の安全に繋がっていく。
岩峰のマッターホルンは太陽熱から地熱を生みだす。
日の出と共に岩肌は加熱が始まり、そうして暖められた岩壁に大気の水分が雲を生む。
そのため南稜や東稜から午後は必ずと言っていいほど雲が発生し、落雷や降雪など気象の変化が起きてしまう。
そして地熱を籠めた岩壁から氷は融け、凍りついていた岩が外れて落石が増えていく。
こうした条件悪化がマッターホルンの午後には起きる、この為に斃れた者は数多い。
だからこその「マッターホルンの登攀はスピード勝負」これが安全な山行の手段になる。
そのために一般ルートの登山者でも、ベースのヘンリルヒュッテから上部のソルベイヒュッテまで規定時間がある。
早朝4時出発でヘンリル稜ルートを4時間以内、この規定に遅れた場合は同行ガイドの指示で引き返す。
この規定が遵守出来なければ危険を招く、そのため実力を確認する雪山と岩壁登攀の検定が設けられている。
そして今、登攀していくルートは北壁シュミッドルート。
一般ルートにされるヘンリル稜より高難度とされる北壁は、道標など何もない岩壁の道。
この北壁を貫くときルートを間違えてタイムロスをするケースが多く、その為に午後の天候悪化に巻き込まれやすい。
けれど光一は澱みなくルートを正確に辿り続け、岩壁に取りついた午前4時から一度も迷ってはいない。
適確なルートファインディングに速いスピードを乗せて登る、その動きは無駄が一切なく慎重で素早い。
カンッ、キンキン、キンッ。
確保点に響くハーケンの声は、すぐ高音に歌いだし堅く打たれたと告げる。
このハーケン1つを打つのにも光一は速い、それだけタイムロスが減り迅速な登攀が出来る。
そして回収する確保点に見るハーケンは、適確に打たれて万が一のフォールにも破壊されない信頼が厚い。
岩壁登攀、アルパインクライミングでは支点作成やビレイといった安全確保を適確に行うことが「自助」の精神に則す。
こうした技術を光一は幼少期から培ってきた、その努力と素質の重厚な輝きが今、頭上の背中に見える。
「ただ山に登るだけだろ?」
いつも光一が笑う言葉は、この巨壁でも変わらない。
この言葉に今、自分も従って普段の通りに登っていく。
この北壁も、滝沢第三スラブも、日々の訓練に登る越沢も同じ岩壁。
確かに標高も高低差も遥かに違う、けれど基本の動作は何も変わらない。
トップの光一がランニングビレイをとり、セカンドの英二が回収していく。
まずハーケンからカラビナを外し、ハンマーのホルスターに細引きで繋いだ専用カラビナを取りつける。
こうしてハンマーと繋ぐことでハーケンの落下を防ぐ、そうした事故防止が山ヤの誇りを護ってくれる。
そしてハーケンの刃の方向と平行に叩き、ハンマーの後部を使う梃子の原理で釘抜きのよう抜いていく。
なるべく岩を傷付けないよう最小限の打撃に抑え、外し終えるとシットハーネスに提げてる。
この一連の作業を終えると、掌と足の三点確保で登りだす。
これら全ての行動に、セカンドは手早い要領が求められる。
それが出来なければトップである光一の足手纏いになり、時間ロスが遭難事故にも繋がっていく。
そして何よりも、光一が今登っていくタイムトライアルの夢を叶えることは出来ない。
この想い祈りながらザイルを辿りハーケンを抜く、その指先は冷えずに動いていく。
―絶対に夢を叶えてあげたい、俺が光一のアンザイレンパートナーでいたい、ずっと
このタイムトライアルは英二に不可能、その意見が多数だと自分で解かっている。
それでも光一は英二の力を認め信じて、挑戦を決めてくれた。そこには英二を公認させる意図もある。
この挑戦を超えることで実績と実力を示し、警視庁山岳会のエースである光一の補佐役として認められること。
それは山と警察組織、その両方での評価と立場を高めることに繋がっていく。それが英二の「目的」を叶えることにもなる。
―でも今はどうでもいい、ただ光一の信頼に応えたい
このトライアルに懸る沢山の事情、沢山の利害。
それは自分自身と、護るべき大切な全てにとって必要なこと、そう解っている。
その「必要」のために自分は山の世界に立つ事を選んだ、けれど今は唯ひとつの想いだけを見つめている。
最高の山ヤの魂を持つ男、その信頼に応えたい。
今はただ、ひとりの山ヤとして男として登っていたい。
今もザイルで繋がれる唯一のアンザイレンパートナー、その最高の補佐を務めたい。
今この瞬間、最高のクライマーが見つめる夢、そこへ自分も登って共に見つめたい。
―…おまえの山の姿をいちばん見てるのは、俺だ。
英二の実力と運は誰より俺がよく知ってるよ?だから世界で一番に、俺がおまえを信じてる
33時間前に光一が言ってくれた言葉、それを信じて自分は登っていく。
山を始めて1年程度の自分、それでも信じてくれる想いが本当に嬉しかった。
この信頼への喜びは今、登っていく岩壁が高難度であるほどに大きくなって、温かい。
そして、繋ぎあうザイルから伝わってくる意志と躍動に、もう意識の底では気づいている。
タイムトライアルを光一が決めたのは、たぶん一昨日じゃない。
きっと、もっと前から光一は、この挑戦を決めていた。
たぶん「約束」を叶える為に。
―俺に出逢うより前から決めていたんだ、光一は。だから計画も綿密なんだ
高低差1,124m、マッターホルン北壁シュミッドルート。
目標タイム2時間、そう光一が告げたのは33時間前、ここツェルマットのベランダだった。
けれど元からこのルートに決めて何度も打ち合わせてきた、だからコースも確保点も全てが頭に入っている。
あの綿密な打ち合わせの時間たちには「意志」があった、その慎重な意志と計画に則って挑戦を決めてくれた。
この計画に見つめた記憶の計算からカウントして、いつもの時間感覚と回収ハーケンの数から位置が解かる。
―もうじき頂上だ、
タイムスケジュールとは多少の誤差があっても、大きくは外れてはいない。
そう一瞬の計算をした左から太陽の気配が射し、頬ふれる冷気に時刻が迫っていると実感さす。
もうすぐ夜が明ける、その感覚と登っていく体を繋いだザイルはリズミカルに動いていく。
そして、メインザイルもアンザイレンザイルも、動きが止まった。
「着いたな?」
独り言に微笑んで、最後のカラビナをハーケンから外す。
いつもどおり専用カラビナを通し、ハンマーを使ってハーケンを抜く。
終えてシットハーネスのループに収容すると、脚の力をメインに三点支持で登りあげた。
そして見た東の彼方、はるかな稜線から黄金の輝きが生まれ今日、最初の光が微笑んだ。
「英二!」
透明なテノールが名前を呼んで、笑顔が迎えてくれる。
ナイフリッジの狭い山頂、風おだやかな安定した天候に紺碧の天穹は東から明るむ。
夜明け前の太陽光が山頂を射して、モルゲンロートの赤い輝きが凍れる雪を彩りだす。
明けていく夜あわい雪の嶺に立つ、そして青いウェアの長い腕が英二を思い切り抱きしめた。
「いま夜明けだよ!おまえ2時間ジャストだねっ、」
ふわり高雅な香が頬撫でて、透明なテノールが高らかに笑う。
ゴーグルを外した貌は綺麗に笑い、底抜けに明るい目が煌めいている。
この笑顔を見たかった、そんな想い笑って英二はアンザイレンパートナーに促した。
「光一、証拠の写真撮らないとダメだろ?おまえの場合タイムトライアルだし、すぐ撮らないと、」
登頂した証拠写真、これがないと記録は公認されない。
本人と頂上からの展望を写し、撮影した場所が解かるように写真で記録する。
この写真に不備が視止められ否認されたケースもある、その心配へと山っ子は陽気に笑った。
「うん、だねっ。ほら、英二?」
笑って英二のゴーグルを外し、白い手に持つカメラを示してくれる。
そのまま少し離れると、光一はレンズを英二に向けた。
「時計の文字盤コッチに向けな、顔の横に持ってくるカンジでね?ほら早くやってよね、撮るよ?」
「え、あ?」
言われるまま左手の甲を向けて、英二はレンズを見た。
そしてシャッター音が響き、テノールが愉快に笑った。
「あははっ、おまえビックリ顔になっちゃったよ?撮りなおそうね、ほら、別嬪の笑顔やれよ?」
「ちょっ、待てって光一?」
自分の笑顔なんか、どうでも良い。
それより大事なことが今はあるだろう?その心配を英二は口にした。
「俺より光一の写真だろ?その為に俺、メモリーカード新しいの買ったんだけど、」
言いながら英二はウェアの内ポケットから、コンパクトデジタルカメラを出した。
いつも証拠探しにも使うカメラに今回の為、新しいメモリーカードをセットしてある。
それを見て底抜けに明るい目が少し大きくなって、光一は高らかに笑いだした。
「あははっ、おまえカメラ持ってきてたんだね?だったら周太の土産に写真、自分でも撮ればいいのにさ?」
「だからな、おまえの記録用だから他のは撮ってないんだよ?時間もちゃんと現地時刻でセットしてあるんだ、」
「へえ?いつのまにそんな準備ヤってた?」
「ツェルマットに着いてすぐ、おまえが風呂入ってる時だよ。ほら時計、こっちに向けろよ、」
説明しながら焦ってしまう、太陽の高度が刻む時間経過に今は困らされる。
そんな想いに向けたファインダー、まばゆい陽光あふれて雪白の貌が輝いた。
「おまえに写真撮ってもらうの、お初だね?ちゃんと美人にとってね、ア・ダ・ム、」
幸せを綺麗にほころばせ、レンズ越し笑いかけてくれる。
夜明の冷気に頬を紅潮にそめて、見つめてくれる目は底抜けに明るく笑う。
ヘルメットを脱いで黒髪を薄い空気にさらす、ナイフリッジの微風に髪は靡いて曙光が艶めいた。
―きれいだ、
レンズ越しのパートナー、その笑顔を見つめる想いが微笑んだ。
生来の美貌に恵まれる光一、けれど今この瞬間の表情にこそ内から輝いている。
見惚れながらファインダーを切る、そして響いたシャッター音に朗らかなテノールが教えてくれた。
「準備と心配ありがとね、でもさ?俺、登ってすぐ自分で撮ってあるからね。タイムレコードも『MANASLU』で計測してるしさ、」
笑いながら一眼レフの再生画面を開き、見せてくれる。
その画面には、頂上から展望するアルプスの山脈が明瞭に写されていた。
見つめる画面を白い指が操作し、映し出されていく写真は徐々に空が夜に戻りだす。
そして360度の展望写真が終わると、白く明るんだ東の空を横に『MANASLU』の文字盤を向ける笑顔が現れた。
「これ、連写で撮ったからさ。ちゃんと太陽が昇ってくるの解かるだろ?データには時間情報も入ってるしね、」
笑って操作してくれる手元、光一の笑顔と東の空が続いていく。
左手に嵌めた『MANASLU』が示す文字盤は、小さな再生画面では見えにくい。
けれど東空の輝度で時間がよく解かる。明確に残された証拠写真たち、その画に見入りながら英二は頷いた。
「うん、これなら解かるな。登頂してすぐの写真は?」
「ちょっと待ってね、これ新しく撮ったのから表示だからさ、」
白い指が操作して写真の時間を遡らす。
どの写真たちも底抜けに明るい笑顔が嬉しい、この笑顔から挑戦結果が分かる。
もう英二が登頂した瞬間に見た笑顔に予想はしている、けれどまだ光一の口から結果は聴いていない。
―どうか夢、叶っていてほしい
祈るような想いと画面を見つめていく。
そして登頂直後の写真が現れて、その東空と光一の笑顔へと英二は綺麗に笑った。
「光一、星明りの頂上は綺麗だった?」
質問に笑って見つめる画面には、明星と黎明の東空が映される。
ヘッドライトの下で笑う雪白の貌、その左手にクライマーウォッチ『MANASLU』が文字盤を見せる。
写真の中、まだ夜明け前の昏い山頂に光一は立っている、その光景を見つめる前で光一が笑ってくれた。
「うん、きれいだったね、」
そう言った笑顔が今、昇っていく曙光にまばゆい。
いつも山で見ている笑顔と変わらない、けれど今いつもと違う現実がある。
その現実を確かめたくて、英二はアンザイレンパートナーに笑いかけた。
「光一、俺にも『MANASLU』のタイムレコード見せて?」
「うん、見てよね、」
笑って白い指がクライマーウォッチを操作していく。
そして示されたタイムレコードに、朗らかなテノールが笑った。
「ちょっと世界記録には及ばなかったケドね?イロイロと条件も違うしさ、でも俺は嬉しいね、」
マッターホルン北壁、標高差1,124mシュミッドルートを完登した世界最短記録は1時間56分40秒。
その記録は2009年1月13日に単独登攀で樹立された、だから光一とは条件の相違がある。
それでも充分にトップクラスの記録、嬉しくて英二はパートナーを抱きしめた。
「おめでとう、光一、」
名前を呼んで笑いかける、その前で山っ子が笑う。
底抜けに明るい目が幸せに笑って、透明なテノールが言ってくれた。
「俺ね、おまえとアンザイレンして、この時間で登れたから嬉しいんだ。ほんとに、うれしいんだ…」
笑顔に言葉が途切れて、透明な瞳から光があふれた。
ナイフリッジ微かな風に紅潮する頬の、明るい幸せな笑顔と涙の軌跡。
その涙と言葉に、光一が今日タイムトライアルをした意味を見つめて英二は微笑んだ。
「うん、俺も嬉しいよ。きっと雅樹さんも喜んでるよ?ずっと雅樹さん、俺と一緒に登ってたから、」
きっと雅樹も共に登っていた、そう確信できる。
いま見下ろしている北壁、ここを登っていた自分は唯ひとつの事しか考えていない。
あの想いはきっと自分だけの願いじゃなかった、だから高難度であるほど嬉しくて温かいと想えた。
―きっと雅樹さんは俺と登ってた、ずっと、
メインザイルとアンザイレンザイルに繋がれて、光一の撃ったハーケンを回収していく。
その手元にはナイフリッジの冷気が吹いていた、けれど金属に触れても指先は温かだった。
薄手のグローブを透かすハーケンとカラビナの感触、そこに青梅署診察室で毎日見る微笑を想った。
青梅署警察医・吉村雅也医師の次男、吉村雅樹。彼の純粋で美しい笑顔が心のどこかで、ずっと咲いていた。
「どうして、そうおもう?」
綺麗な瞳が泣きながら英二を見つめ、微笑んでいる。
幸せに笑う泣顔に笑いかけて、想うままを英二は言葉に変えた。
「信じられないかもしれないけど、回収する時ハーケンとカラビナが冷たくなかったんだ。これって不思議だろ?
だから思ったんだ、このルートもタイムトライアルも雅樹さんとの約束なのかなって。この約束のために光一、俺と登ったろ?」
医学部5回生の秋に槍ヶ岳北鎌尾根で遭難死した、光一が最初にアンザイレンパートナーを約束した相手。
誰もが「良い山ヤで良い男だった」と雅樹を褒め、英二の俤を似ていると懐かしみ想いを語る。
もう16年前に亡くなった男、けれど今も光一の心には生きて過去の人にはなっていない。
それを4月の槍ヶ岳で自分は見つめ、雅樹の途絶えた北鎌尾根の軌跡を繋いで登った。
―あのときと似ていた、北壁を登っていく俺は光一の夢だけ考えていた
だから想う、きっと雅樹は今日も「約束」を叶えるため英二の中にいた。
きっと英二の掌に雅樹の手を添えてくれた、だからカラビナもハーケンも冷たくなかった。
こんなこと非科学的だろう、それでも自分は信じている。その想い素直に英二は微笑んだ。
「光一、本当だよ?雅樹さんは約束を果たすために、俺と一緒にアンザイレンして光一をビレイしていたよ?」
言葉に、底抜けに明るい目が笑ってくれる。
透明な瞳から涙はあふれていく、けれど幸せが瞳に笑う。
マッターホルン山頂に今、まばゆく明ける暁に、涙に輝く山っ子は誇らかに笑った。
「当然だね、俺のアンザイレンパートナーは絶対に約束を守る男なんだ、ふたりともね、」
黄金の雲きらめきだす蒼穹、雪白の笑顔は誇らかな自由に輝いた。

マッターホルン登頂のベースになる街、ツェルマット。
この街では敬意と祝福を表し、マッターホルン北壁完登者の国旗を掲揚する。
そしてこの日、氷食鋭鋒を見上げるホテルには、純白に深紅の太陽を象った国旗が揚げられた。
アルプスの銀嶺と蒼穹の下、山からの祝福に生まれた男はいつものように、ただ山を登って下りてくる。
(to be continued)
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第58話 双壁act.7―side story「陽はまた昇る」
マッターホルンの闇に、ハーケンの歌が響く。
銀の星ふる紺碧の夜、はるかな虚空と鋭鋒の壁に金属音の歌が笑う。
その誇らかな歌声に今、偉大な岩壁へとメインザイルを繋ぐ点が刻まれていく。
キンキン、キンッ。
音が止む、そして赤いザイルがグローブの掌から昇りだす。
ザイルが止まり震動が掌の感覚にゆれ、すぐ止まり軽く引かれた。
くん、と掌を震えたザイルに頷き、手元の支点からカラビナを外しハーケンを回収する。
その傍らザイルは動きを伝え送られていく、そのスピードに添うよう英二も三点支持で登りだす。
―光一、順調だな
ゴーグル越しに見上げる岩壁の向こう、ヘッドライトが黒い脚を照らす。
リズミカルに素早い三点確保の遵守に登る、その動きはいつもの訓練と何も変わらない。
ランニングビレイをとって行く手並みは鮮やかで、ルートファインディングにも迷いが無い。
ただ山頂を目指し光一は登っていく、その軌跡に描かれる赤いザイルを回収しながら英二は後に続く。
コンコン、カンッ、キンキン、キン。
ハーケンが高らかに歌い、岩壁に確保支点の楔が不動に撃たれる。
掴むザイルの感触からハーケンにセットされたと伝心して、呼応にカラビナたちを回収していく。
アンザイレンザイルに繋ぐチェストハーネスとシットハーネスに、光一の動きと意志は伝わり英二の動きを決める。
パートナーの確保に徹しビレイヤーとして登っていく頭上、その蒼い闇に沈んだ岩壁は光一の上に誰もいない。
そして下方から響くハーケンの歌は、遠い。
―トップだ、完全に
よぎる想いにすぐ意識を掌と足に戻す。
ザイル越し伝わるパートナーの意志、誇らかに降るハーケンの歌とメインザイルの手応え。
言葉も会話も無いまま、けれど確実な意志疎通にスピードを緩めず登っていく。
いま夜明前の黎明時、最低気温に到達する大気に岩も氷も安定している。
この冷気を味方にしたまま登り終える、それが登攀の安全に繋がっていく。
岩峰のマッターホルンは太陽熱から地熱を生みだす。
日の出と共に岩肌は加熱が始まり、そうして暖められた岩壁に大気の水分が雲を生む。
そのため南稜や東稜から午後は必ずと言っていいほど雲が発生し、落雷や降雪など気象の変化が起きてしまう。
そして地熱を籠めた岩壁から氷は融け、凍りついていた岩が外れて落石が増えていく。
こうした条件悪化がマッターホルンの午後には起きる、この為に斃れた者は数多い。
だからこその「マッターホルンの登攀はスピード勝負」これが安全な山行の手段になる。
そのために一般ルートの登山者でも、ベースのヘンリルヒュッテから上部のソルベイヒュッテまで規定時間がある。
早朝4時出発でヘンリル稜ルートを4時間以内、この規定に遅れた場合は同行ガイドの指示で引き返す。
この規定が遵守出来なければ危険を招く、そのため実力を確認する雪山と岩壁登攀の検定が設けられている。
そして今、登攀していくルートは北壁シュミッドルート。
一般ルートにされるヘンリル稜より高難度とされる北壁は、道標など何もない岩壁の道。
この北壁を貫くときルートを間違えてタイムロスをするケースが多く、その為に午後の天候悪化に巻き込まれやすい。
けれど光一は澱みなくルートを正確に辿り続け、岩壁に取りついた午前4時から一度も迷ってはいない。
適確なルートファインディングに速いスピードを乗せて登る、その動きは無駄が一切なく慎重で素早い。
カンッ、キンキン、キンッ。
確保点に響くハーケンの声は、すぐ高音に歌いだし堅く打たれたと告げる。
このハーケン1つを打つのにも光一は速い、それだけタイムロスが減り迅速な登攀が出来る。
そして回収する確保点に見るハーケンは、適確に打たれて万が一のフォールにも破壊されない信頼が厚い。
岩壁登攀、アルパインクライミングでは支点作成やビレイといった安全確保を適確に行うことが「自助」の精神に則す。
こうした技術を光一は幼少期から培ってきた、その努力と素質の重厚な輝きが今、頭上の背中に見える。
「ただ山に登るだけだろ?」
いつも光一が笑う言葉は、この巨壁でも変わらない。
この言葉に今、自分も従って普段の通りに登っていく。
この北壁も、滝沢第三スラブも、日々の訓練に登る越沢も同じ岩壁。
確かに標高も高低差も遥かに違う、けれど基本の動作は何も変わらない。
トップの光一がランニングビレイをとり、セカンドの英二が回収していく。
まずハーケンからカラビナを外し、ハンマーのホルスターに細引きで繋いだ専用カラビナを取りつける。
こうしてハンマーと繋ぐことでハーケンの落下を防ぐ、そうした事故防止が山ヤの誇りを護ってくれる。
そしてハーケンの刃の方向と平行に叩き、ハンマーの後部を使う梃子の原理で釘抜きのよう抜いていく。
なるべく岩を傷付けないよう最小限の打撃に抑え、外し終えるとシットハーネスに提げてる。
この一連の作業を終えると、掌と足の三点確保で登りだす。
これら全ての行動に、セカンドは手早い要領が求められる。
それが出来なければトップである光一の足手纏いになり、時間ロスが遭難事故にも繋がっていく。
そして何よりも、光一が今登っていくタイムトライアルの夢を叶えることは出来ない。
この想い祈りながらザイルを辿りハーケンを抜く、その指先は冷えずに動いていく。
―絶対に夢を叶えてあげたい、俺が光一のアンザイレンパートナーでいたい、ずっと
このタイムトライアルは英二に不可能、その意見が多数だと自分で解かっている。
それでも光一は英二の力を認め信じて、挑戦を決めてくれた。そこには英二を公認させる意図もある。
この挑戦を超えることで実績と実力を示し、警視庁山岳会のエースである光一の補佐役として認められること。
それは山と警察組織、その両方での評価と立場を高めることに繋がっていく。それが英二の「目的」を叶えることにもなる。
―でも今はどうでもいい、ただ光一の信頼に応えたい
このトライアルに懸る沢山の事情、沢山の利害。
それは自分自身と、護るべき大切な全てにとって必要なこと、そう解っている。
その「必要」のために自分は山の世界に立つ事を選んだ、けれど今は唯ひとつの想いだけを見つめている。
最高の山ヤの魂を持つ男、その信頼に応えたい。
今はただ、ひとりの山ヤとして男として登っていたい。
今もザイルで繋がれる唯一のアンザイレンパートナー、その最高の補佐を務めたい。
今この瞬間、最高のクライマーが見つめる夢、そこへ自分も登って共に見つめたい。
―…おまえの山の姿をいちばん見てるのは、俺だ。
英二の実力と運は誰より俺がよく知ってるよ?だから世界で一番に、俺がおまえを信じてる
33時間前に光一が言ってくれた言葉、それを信じて自分は登っていく。
山を始めて1年程度の自分、それでも信じてくれる想いが本当に嬉しかった。
この信頼への喜びは今、登っていく岩壁が高難度であるほどに大きくなって、温かい。
そして、繋ぎあうザイルから伝わってくる意志と躍動に、もう意識の底では気づいている。
タイムトライアルを光一が決めたのは、たぶん一昨日じゃない。
きっと、もっと前から光一は、この挑戦を決めていた。
たぶん「約束」を叶える為に。
―俺に出逢うより前から決めていたんだ、光一は。だから計画も綿密なんだ
高低差1,124m、マッターホルン北壁シュミッドルート。
目標タイム2時間、そう光一が告げたのは33時間前、ここツェルマットのベランダだった。
けれど元からこのルートに決めて何度も打ち合わせてきた、だからコースも確保点も全てが頭に入っている。
あの綿密な打ち合わせの時間たちには「意志」があった、その慎重な意志と計画に則って挑戦を決めてくれた。
この計画に見つめた記憶の計算からカウントして、いつもの時間感覚と回収ハーケンの数から位置が解かる。
―もうじき頂上だ、
タイムスケジュールとは多少の誤差があっても、大きくは外れてはいない。
そう一瞬の計算をした左から太陽の気配が射し、頬ふれる冷気に時刻が迫っていると実感さす。
もうすぐ夜が明ける、その感覚と登っていく体を繋いだザイルはリズミカルに動いていく。
そして、メインザイルもアンザイレンザイルも、動きが止まった。
「着いたな?」
独り言に微笑んで、最後のカラビナをハーケンから外す。
いつもどおり専用カラビナを通し、ハンマーを使ってハーケンを抜く。
終えてシットハーネスのループに収容すると、脚の力をメインに三点支持で登りあげた。
そして見た東の彼方、はるかな稜線から黄金の輝きが生まれ今日、最初の光が微笑んだ。
「英二!」
透明なテノールが名前を呼んで、笑顔が迎えてくれる。
ナイフリッジの狭い山頂、風おだやかな安定した天候に紺碧の天穹は東から明るむ。
夜明け前の太陽光が山頂を射して、モルゲンロートの赤い輝きが凍れる雪を彩りだす。
明けていく夜あわい雪の嶺に立つ、そして青いウェアの長い腕が英二を思い切り抱きしめた。
「いま夜明けだよ!おまえ2時間ジャストだねっ、」
ふわり高雅な香が頬撫でて、透明なテノールが高らかに笑う。
ゴーグルを外した貌は綺麗に笑い、底抜けに明るい目が煌めいている。
この笑顔を見たかった、そんな想い笑って英二はアンザイレンパートナーに促した。
「光一、証拠の写真撮らないとダメだろ?おまえの場合タイムトライアルだし、すぐ撮らないと、」
登頂した証拠写真、これがないと記録は公認されない。
本人と頂上からの展望を写し、撮影した場所が解かるように写真で記録する。
この写真に不備が視止められ否認されたケースもある、その心配へと山っ子は陽気に笑った。
「うん、だねっ。ほら、英二?」
笑って英二のゴーグルを外し、白い手に持つカメラを示してくれる。
そのまま少し離れると、光一はレンズを英二に向けた。
「時計の文字盤コッチに向けな、顔の横に持ってくるカンジでね?ほら早くやってよね、撮るよ?」
「え、あ?」
言われるまま左手の甲を向けて、英二はレンズを見た。
そしてシャッター音が響き、テノールが愉快に笑った。
「あははっ、おまえビックリ顔になっちゃったよ?撮りなおそうね、ほら、別嬪の笑顔やれよ?」
「ちょっ、待てって光一?」
自分の笑顔なんか、どうでも良い。
それより大事なことが今はあるだろう?その心配を英二は口にした。
「俺より光一の写真だろ?その為に俺、メモリーカード新しいの買ったんだけど、」
言いながら英二はウェアの内ポケットから、コンパクトデジタルカメラを出した。
いつも証拠探しにも使うカメラに今回の為、新しいメモリーカードをセットしてある。
それを見て底抜けに明るい目が少し大きくなって、光一は高らかに笑いだした。
「あははっ、おまえカメラ持ってきてたんだね?だったら周太の土産に写真、自分でも撮ればいいのにさ?」
「だからな、おまえの記録用だから他のは撮ってないんだよ?時間もちゃんと現地時刻でセットしてあるんだ、」
「へえ?いつのまにそんな準備ヤってた?」
「ツェルマットに着いてすぐ、おまえが風呂入ってる時だよ。ほら時計、こっちに向けろよ、」
説明しながら焦ってしまう、太陽の高度が刻む時間経過に今は困らされる。
そんな想いに向けたファインダー、まばゆい陽光あふれて雪白の貌が輝いた。
「おまえに写真撮ってもらうの、お初だね?ちゃんと美人にとってね、ア・ダ・ム、」
幸せを綺麗にほころばせ、レンズ越し笑いかけてくれる。
夜明の冷気に頬を紅潮にそめて、見つめてくれる目は底抜けに明るく笑う。
ヘルメットを脱いで黒髪を薄い空気にさらす、ナイフリッジの微風に髪は靡いて曙光が艶めいた。
―きれいだ、
レンズ越しのパートナー、その笑顔を見つめる想いが微笑んだ。
生来の美貌に恵まれる光一、けれど今この瞬間の表情にこそ内から輝いている。
見惚れながらファインダーを切る、そして響いたシャッター音に朗らかなテノールが教えてくれた。
「準備と心配ありがとね、でもさ?俺、登ってすぐ自分で撮ってあるからね。タイムレコードも『MANASLU』で計測してるしさ、」
笑いながら一眼レフの再生画面を開き、見せてくれる。
その画面には、頂上から展望するアルプスの山脈が明瞭に写されていた。
見つめる画面を白い指が操作し、映し出されていく写真は徐々に空が夜に戻りだす。
そして360度の展望写真が終わると、白く明るんだ東の空を横に『MANASLU』の文字盤を向ける笑顔が現れた。
「これ、連写で撮ったからさ。ちゃんと太陽が昇ってくるの解かるだろ?データには時間情報も入ってるしね、」
笑って操作してくれる手元、光一の笑顔と東の空が続いていく。
左手に嵌めた『MANASLU』が示す文字盤は、小さな再生画面では見えにくい。
けれど東空の輝度で時間がよく解かる。明確に残された証拠写真たち、その画に見入りながら英二は頷いた。
「うん、これなら解かるな。登頂してすぐの写真は?」
「ちょっと待ってね、これ新しく撮ったのから表示だからさ、」
白い指が操作して写真の時間を遡らす。
どの写真たちも底抜けに明るい笑顔が嬉しい、この笑顔から挑戦結果が分かる。
もう英二が登頂した瞬間に見た笑顔に予想はしている、けれどまだ光一の口から結果は聴いていない。
―どうか夢、叶っていてほしい
祈るような想いと画面を見つめていく。
そして登頂直後の写真が現れて、その東空と光一の笑顔へと英二は綺麗に笑った。
「光一、星明りの頂上は綺麗だった?」
質問に笑って見つめる画面には、明星と黎明の東空が映される。
ヘッドライトの下で笑う雪白の貌、その左手にクライマーウォッチ『MANASLU』が文字盤を見せる。
写真の中、まだ夜明け前の昏い山頂に光一は立っている、その光景を見つめる前で光一が笑ってくれた。
「うん、きれいだったね、」
そう言った笑顔が今、昇っていく曙光にまばゆい。
いつも山で見ている笑顔と変わらない、けれど今いつもと違う現実がある。
その現実を確かめたくて、英二はアンザイレンパートナーに笑いかけた。
「光一、俺にも『MANASLU』のタイムレコード見せて?」
「うん、見てよね、」
笑って白い指がクライマーウォッチを操作していく。
そして示されたタイムレコードに、朗らかなテノールが笑った。
「ちょっと世界記録には及ばなかったケドね?イロイロと条件も違うしさ、でも俺は嬉しいね、」
マッターホルン北壁、標高差1,124mシュミッドルートを完登した世界最短記録は1時間56分40秒。
その記録は2009年1月13日に単独登攀で樹立された、だから光一とは条件の相違がある。
それでも充分にトップクラスの記録、嬉しくて英二はパートナーを抱きしめた。
「おめでとう、光一、」
名前を呼んで笑いかける、その前で山っ子が笑う。
底抜けに明るい目が幸せに笑って、透明なテノールが言ってくれた。
「俺ね、おまえとアンザイレンして、この時間で登れたから嬉しいんだ。ほんとに、うれしいんだ…」
笑顔に言葉が途切れて、透明な瞳から光があふれた。
ナイフリッジ微かな風に紅潮する頬の、明るい幸せな笑顔と涙の軌跡。
その涙と言葉に、光一が今日タイムトライアルをした意味を見つめて英二は微笑んだ。
「うん、俺も嬉しいよ。きっと雅樹さんも喜んでるよ?ずっと雅樹さん、俺と一緒に登ってたから、」
きっと雅樹も共に登っていた、そう確信できる。
いま見下ろしている北壁、ここを登っていた自分は唯ひとつの事しか考えていない。
あの想いはきっと自分だけの願いじゃなかった、だから高難度であるほど嬉しくて温かいと想えた。
―きっと雅樹さんは俺と登ってた、ずっと、
メインザイルとアンザイレンザイルに繋がれて、光一の撃ったハーケンを回収していく。
その手元にはナイフリッジの冷気が吹いていた、けれど金属に触れても指先は温かだった。
薄手のグローブを透かすハーケンとカラビナの感触、そこに青梅署診察室で毎日見る微笑を想った。
青梅署警察医・吉村雅也医師の次男、吉村雅樹。彼の純粋で美しい笑顔が心のどこかで、ずっと咲いていた。
「どうして、そうおもう?」
綺麗な瞳が泣きながら英二を見つめ、微笑んでいる。
幸せに笑う泣顔に笑いかけて、想うままを英二は言葉に変えた。
「信じられないかもしれないけど、回収する時ハーケンとカラビナが冷たくなかったんだ。これって不思議だろ?
だから思ったんだ、このルートもタイムトライアルも雅樹さんとの約束なのかなって。この約束のために光一、俺と登ったろ?」
医学部5回生の秋に槍ヶ岳北鎌尾根で遭難死した、光一が最初にアンザイレンパートナーを約束した相手。
誰もが「良い山ヤで良い男だった」と雅樹を褒め、英二の俤を似ていると懐かしみ想いを語る。
もう16年前に亡くなった男、けれど今も光一の心には生きて過去の人にはなっていない。
それを4月の槍ヶ岳で自分は見つめ、雅樹の途絶えた北鎌尾根の軌跡を繋いで登った。
―あのときと似ていた、北壁を登っていく俺は光一の夢だけ考えていた
だから想う、きっと雅樹は今日も「約束」を叶えるため英二の中にいた。
きっと英二の掌に雅樹の手を添えてくれた、だからカラビナもハーケンも冷たくなかった。
こんなこと非科学的だろう、それでも自分は信じている。その想い素直に英二は微笑んだ。
「光一、本当だよ?雅樹さんは約束を果たすために、俺と一緒にアンザイレンして光一をビレイしていたよ?」
言葉に、底抜けに明るい目が笑ってくれる。
透明な瞳から涙はあふれていく、けれど幸せが瞳に笑う。
マッターホルン山頂に今、まばゆく明ける暁に、涙に輝く山っ子は誇らかに笑った。
「当然だね、俺のアンザイレンパートナーは絶対に約束を守る男なんだ、ふたりともね、」
黄金の雲きらめきだす蒼穹、雪白の笑顔は誇らかな自由に輝いた。

マッターホルン登頂のベースになる街、ツェルマット。
この街では敬意と祝福を表し、マッターホルン北壁完登者の国旗を掲揚する。
そしてこの日、氷食鋭鋒を見上げるホテルには、純白に深紅の太陽を象った国旗が揚げられた。
アルプスの銀嶺と蒼穹の下、山からの祝福に生まれた男はいつものように、ただ山を登って下りてくる。
(to be continued)
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