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想いの花、山茶花―Reginald Horace Blyth

2021-10-30 02:07:14 | 文学閑話韻文系
花、この異邦に還る
レジナルド・ホーラス・ブライス×山茶花


文学閑話:想いの花、山茶花―Reginald Horace Blyth

山茶花に 心残して 旅立ちぬ

1964年10月28日に亡くなった学者の辞世句です。
Reginald Horace Blyth レジナルド・ホーラス・ブライス博士。
第二次世界大戦の敗戦で消されそうになった「日本」を支え守った学者の一人です。
生涯かけて日本を愛し、日本文化と日本文学の研究者として生きて、日本で亡くなりました。

ブライス博士は英国生まれ、ロンドン大学卒業。
それから京城帝国大学英文科助教授、第四高等学校英語教官を歴任するなかでイギリス出身の夫人と離婚しています。
当時、ヨーロッパから見た東洋は野蛮というだけでなく、気候も文化も違いすぎて生活するには困難だった現実がありました。
それでも日本を選んだ博士は、第二次世界大戦下も母国に帰国しなかったため敵性外国人として収監されます。
そして戦後も日本に残ることを選び、戦後処理にも奔走し、学習院大学英文科に勤めました。

戦後の日本は教科書を黒塗りにしたという話を聞いたことあるかと思いますが、日本の文化と歴史は存亡の危機にありました。
古代から世界どこでも、被征服された国は「母国の意識=アイデンティティ」を消すことをよく行っています。
アイデンティティを消せばいわゆる愛国心が消える→植民地化され属国化しても疑問を持たなくなるからです。
けれど日本の文学も歴史も言語も絶えていません、それは日本を愛してくれた異国出身の学者たちの尽力です。

よく知られている日本文学者のドナルド・キーン博士もその一人、戦中戦後と日本を支えてくださいました。
戦中は情報収集のため奪取された日本兵の手紙を、その家族に届けたいと願われて命令違反を承知で隠し保管されました。
軍令違反は命懸けです、それでも「この美しい手紙たちを、この籠められた心を粗末にはできない」と保管を決意されたのだそうです。
その手紙たちは米軍上層部に見つかり没収されて、このことをキーン先生は生涯の心残りと仰っていました。

ブライス博士は戦前から日本の教壇に立ち、戦時下は獄中にありながら戦後も日本で学者として生きました。
禅と俳句を西洋に広めた代表的学者でもあり、私生活でも日本女性と再婚されて、今は鎌倉の寺院で永眠されています。
ずっと日本に立ち続けた姿勢とその研究功績に、東京大学も文学博士号を授与しています。
その涯に見た花、山茶花の辞世句であることが響くなあと。

山茶花に 心残して 旅立ちぬ

山茶花は日本の自生種、原種の花色は白ですが園芸種の薄紅色もきれいです。
祖国より愛した国の花、その名前に永眠の地を選んだ意志と想いが燈るようだなと。
この花が咲くと秋、そしてブライス博士を思いだします。
【引用詩文:レジナルド・ホーラス・ブライスReginald Horace Blyth辞世句】


ほんとは当日10/28の一昨日UPのつもりが夜は寝落ち→昨日なんとか書いたけど、日付を跨いでしまいました、笑
【撮影地:神奈川県2016.10,2015.12】

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