萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

secret talk83 安穏act.20 ―dead of night

2018-05-12 10:34:10 | dead of night 陽はまた昇る
記憶を慕って、
英二23歳side story追伸@第6話 木洩日


secret talk83 安穏act.20 ―dead of night

木洩陽きらめく夏の庭、午後の太陽ゆられて光る。
緑あわく深まる時間の風ゆれて、他人の庭に隠れこむ。
今日はじめて訪れた家、それなのに隠れたいほど安らいで、そして揺れる。

『どうして周太のはいいの?』

ほら?言葉ひとつ鼓動ゆらす。
たった今さっき言われた言葉、言われて隠れてしまった自分。
だって解らない何を答えられるのだろう?息ひとつ吐いた樹影、英二は座りこんだ。

「どうしてって…俺が訊きたいよな?」

ひとりごと唇ほろ甘い、木洩陽の風やわらかに香る。
庭木立しずかな空間おだやかな光、見あげた梢が緑あふれる。

“湯原くんのエプロン姿はいいなって想います”

そんなこと言ったのは自分、それは自分の本音。
そんな本音の真ん中にいる横顔は、この木陰にいくど座ったろう?

―湯原が育った場所、なんだよな…あの母親のもとで、

君の母親と話した、そして問われた言葉が木洩陽ゆれる。
どうして「いいな」と想ってしまうのだろう?

―俺も湯原も男なのに、どうしてだろ俺?

どうして君なのだろう、自分は?
それとも何かの勘違いだろうか?

でも今も耳が足音つかまえたがる、君の音を。

「…宮田?」

ほら呼んでくれた、鼓動が敲く。

「湯原、」

呼び返して振り向いて、エプロンの藍色に木洩陽ゆれる。

※校正中
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