子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ミッション:8ミニッツ」:「トンデモ話」を信じ込ませる映像的な魔術

2011年11月07日 23時29分07秒 | 映画(新作レヴュー)
ケン・グリムウッドの「リプレイ」や北村薫の「ターン」に代表される「ループ」ものには古今東西秀れた作品が多いが,ダンカン・ジョーンズの新作「ミッション:8ミニッツ」もまたその名作群の列に連なり,末永く愛されていくだろうという予感を感じさせる。
「月に囚われた男」で華々しくデビューしたジョーンズだが,デビュー作と同様の「限定された空間に閉じこめられる」というシチュエーションを更に拡げて(縮めて?),繰り返される時間にも繋がれてしまった人間の閉塞感と孤独を重層的に描いて,飽きさせない。

作品としては,一人の人間の意識に別の人間の意識を取り込むというプログラム(原題=ソース・コード)を使って,どうやらアフガニスタンで事故にあったらしいヘリコプターの操縦士スティーヴンス(ジェイク・ギレンホール)の意識が,シカゴで起こった列車爆破事件で死んだ教師の意識に入り込み,爆破事件の真相を探り出そうと奮闘するSFアクションの体裁を取っている。
スティーヴンスの意志に拘わらず,プログラムの実行者である軍幹部(ヴェラ・ファーミガ)の操作で,半強制的に8分間の時間体験を何度も繰り返すうちに,徐々に犯人に迫っていく過程は,様々な映像的な意匠を塗されて実にスリリングだ。製作陣に名を連ねているフィリップ・ルスレは,おそらくロバート・レッドフォードの「リバー・ランズ・スルー・イット」でアカデミー賞を受賞したカメラマン,フィリップ・ルースロ(当時の表記)と同一人物だと思われるが,同作とは趣は異なるながらも,画面の統一感のあるルックと,これみよがしでないSFXは,カルト的な愛好の的となるに充分な品格を備えている。

スティーヴンスが爆破される列車で一緒にいる女性(ミシェル・モナハン)とのロマンスと,ファーミガとの信頼関係が構築されていく過程とが対になって,複雑なようでいて実はシンプルな物語の推進力になっている脚本も見事だ。
意識が現実を作り替えてしまうという,あまりといえばあまりな話を,素直に信じ込ませてしまうジョーンズの手腕は,父親であるデヴィッド・ボウイの若かりし頃の派手なパフォーマンスとは明らかに肌合いが違うのだが,異次元に観客(リスナー)を引き込む力の柔らかさという点で,通じるものがあるのかもしれない。

「人生があと1分で終わるとしたら,あなたは何をしますか?」という,劇中何度か繰り返されるベタな問いかけが,時間が経ってから胸にこだまする。さて,どうしようかな?
★★★★
(★★★★★が最高)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。