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映画「43年後のアイ・ラヴ・ユー」:「元演劇評論家」ブルース・ダーン,一世一代の名演技

2021年01月24日 12時07分45秒 | 映画(新作レヴュー)
フライヤーでは主人公を「70歳のクロード」と紹介しているが,何処からどう見ても70歳には見えない,実際には84歳のブルース・ダーンが実年齢そのままの地で演じて,まんまと観客の涙腺を崩壊させる。2019年制作の「43年後のアイ・ラヴ・ユー」は,ブルースの俳優歴で言うと1976年の「ファミリー・プロット」から「ブラック・サンデー」,「帰郷」という,ブルースにとってのいわば黄金時代の出来事のその後を描いていると見ることも出来る訳で,その意味では「ネブラスカ ふたつの心を繋ぐ旅」を凌ぐ「役者ブルース・ダーン」の地味ながらも見事な「大見得」と言える。

妻を亡くした元演劇評論家のクロードは,今も細々と続ける仕事のおかげで,かつて愛し合った女優のリリィがアルツハイマーを患い,施設にいることを知る。どうしてもリリィに近づきたいと思ったクロードは,自分もアルツハイマーだと偽って,施設に入り込み彼女との交流を再開する。クロードに関する記憶を失ったリリィだったが,女優としてのリリィはまだ彼女の中に生きているはずと信じたクロードは,彼を慕う孫娘の協力を得て,リリィに最後のアプローチを試みる。

物語としては極めてオーソドックスで,捻りも弱く,まさに予定調和の「老人による人生賛歌」に陥ってしまう寸前の作品を,ブルース・ダーンのヴェテランらしい重厚感をあえて排除しつつも,軽妙なウィットに富んだリズミカルな演技が甦らせている。脇で渋さを発揮してきたバイプレーヤーが主演に回った時に得てして嵌まりがちな「力み過ぎ感」は微塵もなく(力を入れようとしても,もうできないのかもしれないが),飄々と役を膨らませる余裕には,抑えた表情やパフォーマンスで暗い怒りを表現していた若かりし頃とは異なるエネルギーが宿っていて目が離せない。この一皮剥けた演技の裏には,娘のローラ・ダーンが熟年期を迎えてオスカーに輝いた「マリッジ・ストーリー」を筆頭に,近年目覚ましい活躍を遂げていることも影響しているのかもしれない。「娘,よう見とけ。婆さんになったらこれを抜いてみろや」的な親心,実に楽しい。

スペイン人の監督マーティン・ロセテ繋がりなのか,施設の支配人役で「キカ」の主演女優ヴェロニカ・フォルケの顔を見られたのも嬉しい収穫。
アメリカ,フランス,スペインと,国際色豊かな制作陣に,老人問題がグローバル・マターであることを実感しつつ,名優に拍手を送りたい。
★★★
(★★★★★が最高)

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