子供はかまってくれない

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映画「悪の教典」:大島優子が抱いた嫌悪感とは違うかもしれないけれど

2012年11月23日 20時56分38秒 | 映画(新作レヴュー)
イメージだけで言うと四半期毎に新作が公開されているような印象のある,三池崇史監督の新作は,貴志祐介の小説の映画化作品。原作(私は未読)が主に若い層をターゲットとして大ベストセラーとなったことに加えて,AKB48の大島優子が作品鑑賞後に涙で嫌悪感を語ったという「事件」が追い風(田中真紀子大臣風言い回し)になったのかどうかは定かではないが,公開2週目の週末で65万人を動員し,興収で10億円に到達したのは,秋の椿事と言っても良いのではないだろうか。
フジテレビが原作者の怒りを買ってしまったことで多少ミソがついたにせよ「海猿」シリーズ最新作の興行も好調で,好感度抜群の伊藤英明がサイコパスの高校教師を演じるということも話題になっていたようだが,私が観た回も高校生の姿が目に付き,平均年齢も20代半ばくらいという感じだった。「エヴァ」最新作も含めて,映画界は完全に「若者と年寄り」という,「興行的見地から見た二つのゴールデンエイジ」に支配されているという感を強くする秋興行だ。

話が作品から逸れてしまったが,日本映画としてはおそらく(プロットとしてはメインではないが)32人を殺した横溝正史の「八つ墓村」の映画化作品以来ではないかと思われる,大量殺人事件を取り上げたスリラー。これだけの人を殺しながらも,常識的な人々にとってはその動機が理解できないサイコパスかつシリアル・キラー(連続殺人犯)を主人公に据えたメジャー資本の作品は,非常に珍しいと思う。商売になると踏んだ嗅覚の為せる業と言えばそれまでだが,「R15+」指定を覚悟で臨んだ東宝の覚悟が実を結んだことは実に喜ばしい。

だが作品としての評価は,勿論制作陣の英断への評価や興収とは全く別の次元の話だ。
私は常人の理解を超えた人間の,常軌を逸した行為を描くことに何の意味があるのか,と訝る識者に同調する気はないが,少なくとも過去の三池作品に比べると,積極的に評価する出来ではない,と言わざるを得ない。
大量殺戮に到るプロット構成,更に美術や音響など技術的な部分に対する不満も多々あるが,何より主人公の蓮実=ハスミン(伊藤英明)から,常軌を逸した行為の源泉となる,まさに我々が理解できない狂気が自然と醸し出すはずの,どす黒い恐怖を感じない点が一番の問題だ。

得体が知れないことの恐怖は,何をされるのかが分からないことと,何故それが行われるのか,理由が分からないこと,の二つに集約されると思うのだが,そのどちらもが溢れるばかりに画面に詰め込まれていた,同じ三池作品の「オーディション」(2000年)に比べると,すべてが弛緩している。
罪のない高校生が次から次へと殺されていくシーンがこれでもかとばかりに続くのに,彼らが銃口を向けられた瞬間の恐怖,理不尽な怒りといった,殺される側の思いが切実なものとして像を結ばないのだ。
気が狂ったサイコパスが,事務的作業をこなすように教え子を殺していく。こんな風に簡単に集約されてしまう物語を,把握も理解も不能な世界に生きていることの不思議と困難さを感じさせる作品に昇華させる力を持った監督のはずだけに,とても残念だ。
二階堂ふみと染谷将太,そして吹越満という,園子音組の「ユニット貸し」も力及ばず。
★★☆
(★★★★★が最高)



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