子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「魍魎の筺」:タイトル通り,もぬけの殻

2007年12月30日 23時24分22秒 | 映画(新作レヴュー)
私は京極夏彦の小説を読んだことはないので,小説の出来と比べた論評は出来ないが,豪華なキャストで銀幕に展開された江戸川乱歩新世紀バージョンという趣の本作は,物語の外郭に注がれたエネルギーが肝心のお話に到達する前に枯渇してしまい,正に中身が消えた筺の如き感触だけが残る結果となった。これをお正月映画として売るという仕事は,人間の身体を再生させることや,バラバラ殺人事件の真犯人を推理することよりも至難の業かもしれない。

主人公である古本屋の主人とその妹,小説家,探偵に警察官という面々が一堂に会して,あれやこれやのマシンガントークを繰り広げる場面のテンポは,ハリウッド仕込みの原田監督の面目躍如,と呼ぶに相応しい小気味良さがある。
しかしその会話のムードや,時間軸をずらせながら事件の顛末を捉えていく前半のコンパクトな展開と,失踪した娘を捜す女優と不気味な医学博士の関係を,怪奇趣味一杯の背景で描いた,後半の粘着度の高い画面の間には,見るも明らかな落差が生じている。
そしてその落差は,犯人捜しに集中することにも,柄本明扮するマッドサイエンティストの不気味さに怯えることにも,負の役割しか担えていないように見える。

クライマックスで,映画の主役に躍り出るはずだった人体再生工場の描写も冴えない。C.Gで見せた外観を凌駕するような複雑な構造と装置の奇怪さを期待した観客は,空間把握という点で根本的な問題を抱えているように見える美術陣のお粗末な仕事に,呆気にとられるかもしれない。
最も,仮にそれがまともなお化け屋敷に見えたとしても,何を演じてもワンパターンの大女優黒木瞳と,彼女が愛した微かな痕跡も見せずに,ただぶつぶつ呟くだけの柄本明の怪演の前では,焼け石に水だったかもしれないが。

快調な仕事が続いていた阿部寛と堤真一にとっては,ちょっとした小休止となってしまったが,田中麗奈はおきゃんな妹役を軽くいなして悪くない。気になるのはこのところの谷村美月の露出度の高さだが,見るからに利発そうなので,次からは出演の是非を,自分で脚本を読んで判断してもらいたい。本作品の役柄ではないが,手足をもがれては,折角の才能も伸ばすことは出来ないだろうから。


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