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子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「万引き家族」:世の中を恨む暇を惜しんで生きていく

2018年07月01日 21時18分12秒 | 映画(新作レヴュー)
暗い話題ばかりの日本で,予選リーグの健闘により思いがけず国民の希望の星となりつつあったサッカー日本代表だが,ノックアウトラウンド進出を狙って「ファイト放棄=他力本願」という判断をしたことによって,実に微妙な役回りを演じることになってしまった。日本が先制された段階で,本当はコロンビアとセネガルも引き分け狙い,という戦術を取ることも出来たのだが,両国は日本対ポーランドの結果に関係なく,最後までフェアにファイトする道を選んだ,という事実は,西野監督の判断以上に重いと思われる。でもここはサッカー欄ではないので,サムライブルーとは異なり,純粋に日本を沸かせている作品にフォーカスしたい。それは勿論,是枝裕和監督がカンヌでパルム・ドールを勝ち取った「万引き家族」だ。

カンヌ国際映画祭の受賞作は,外国作品は勿論だが,今村昌平監督の2作品「楢山節考」「うなぎ」でさえ,興行的に大成功した,という記憶はない。ましてや子供が親(実際は「のような人」)の手引きで「万引き」というれっきとした犯罪に手を染める「PG12」作品が,実写作品のヒットの水準である10億円を大幅に超え,40億円の興収を挙げる可能性もあると聞いて驚いた。確かに全国公開から3週目の日曜という状況でも劇場は約6割の入り。何が観客の琴線に触れたのか,簡単に総括することは難しいが,映画で描かれた「疑似家族」が醸し出すリアルな「一歩間違ったらこっちかも」感と,家族を構成する役者たちが織りなす奇跡的なアンサンブルが,「感動」というよりも「共感」によってもの凄いエネルギーを生み出した,という印象が強い。

是枝監督と対象との距離感は,同様に現実の出来事にインスパイアされて優れた作品を撮り続けた(ている)伊丹十三監督や周防正行監督のそれとは明らかに違う。雑駁な比較を許してもらえるならば,後者ふたりの視点が常に対象の外にあり,対象を俯瞰する姿勢を守ることでそのリアルに迫ろうとするのに対して,本作のカメラは6人家族の真ん中から動かない,という感覚だ。当事者の立場から語られる物語は当然,万引きは悪いから断罪される,という単純な図式には収まらない。疑似家族から切り離されてしまった女の子が「これからどうすればよいの?」という顔のクローズアップで終わるラストシーンは,だから至極当然の結果だと納得できる。

安藤サクラの演技を超えた泣き顔も,樹木希林の「日本の老婆」像も,細野晴臣が作り出すジョニー・グリーンウッドばりの電子音も素晴らしいが,いつまでも心に残るのは安藤の実生活の義父である柄本明が,万引きの常習犯の男の子に言う「妹にはやらせるなよ」という台詞。断罪よりも遥かに深い洞察力と愛が,この国を救うと信じたい。
★★★★
(★★★★★が最高)


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