子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ヤバい経済学」:看板に偽りはあるが,楽しめること請け合いの疑似ドキュメンタリー

2011年08月22日 00時07分35秒 | 映画(新作レヴュー)
題名には「経済学」という文字が入っているが,題名に偽りなしのエピソードはプロローグの部分のみで,後は「ヤバい統計学」というタイトルの方がしっくり来る内容だ。だが,そんなことには関係なく,4つの主要テーマとそれを彩るいくつかのエピソードは,リズミカルな演出と編集によって,下手なドラマよりも笑えて考えて楽しめる「エンターテインメント・ドキュメンタリー」になっている。「娯楽作品製造工場」ハリウッドに対する意見は様々だと思うが,少なくとも商売として成り立つドキュメンタリーを数多く生み出す国としての評価は,きちんとなされなければならないという感を強くさせる作品だ。

原作は経済学者スティーヴン・レヴィットとジャーナリストのスティーヴン・ダブナーの共著。「人はインセンティブ(成功報酬)によって動く」という身も蓋もないが,おそらくは真実っぽい原理を,幾つかのパターンにあてはめて実証し,なおかつそれをエンターテインメントとして成立させることが,本作の一番の目的だろう。
「スーパー・サイズ・ミー」で身体を張った実証実験をやり遂げたモーガン・スパーロックを筆頭に,6人もの腕っ節の強い監督が,この試みに舌なめずりをしながら参画し,それぞれが水準以上の成果をものにしている。

特に最初のテーマである「名前」に関するエピソードにおいて,「経済的に困窮していたり教育程度が低い家庭の方が,子供に変わった名前を付ける傾向がある」という事実に我知らず膝を叩いていたら,ネイティブ・アフリカン(=黒人)がイスラム教の影響の強い名前を付けるようになったのは公民権運動が盛んになった1960年代後半以降である,という指摘によって,カウンターを食らってしまった。この現実の解析とその因果関係を追求する姿勢は,間違いなく名著「マネー・ボール」の主人公であるビリー・ビーンの姿に重なるものがある,と書いても反論は少ないはずだ。限られた財源でチームを運営するため,徹底的に数字を解析し,打率よりも出塁率を重視するという独特の選手選択理論に行き着いたGMを,ブラッド・ピットが演じる同名の作品とセットで売ったら,この作品にももっとスポット・ライトが当たっていたかもしれない。残念だ。

難しい顔で「こんなものはドキュメンタリーとは呼べない!」と怒る向きもいらっしゃることとは思うが,そういう場合は本作でそれなりに実証された「褒めてくれたら500ドル」戦法で落とせばよいのだ。そんな,お堅い評論家に対する実験こそ,是非「ヤバ経」パート2でお願いしたい。
★★★★
(★★★★★が最高)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。