トッド・ラングレン「ラント:ザ・バラッド・オブ・トッド・ラングレン」
天才ミュージシャンの呼び声高く,プロデューサーとしても数多くの傑作を残してきたトッド・ラングレンだが,ミュージシャンの間での評価と一般リスナーにおける知名度の落差が,これ程大きいアーティストもそうはいないかもしれない。ひょっとするとアーティストとしてのクリエイティビティーよりも,ビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォエバー」の完全コピーというパフォーマンスの方が有名かもしれない,というくらいに。
その手腕を買われてビッグ・アーティストのプロデュースを引き受けながら,強すぎる個性と妥協を許さない姿勢故に,アーティストと衝突を繰り返して来たことでも有名だ。特にザ・バンドとXTCという,私のご贔屓バンドと繰り広げたバトルは特に激しかったと言われている。
その結果はと言うと,当時やや停滞期に入りかけていたザ・バンドと組んだ「カフーツ」は,トッドとロビー・ロバートソンとの仲裁役の不在もあったのか,残念ながら空中分解に近い結果に終わってしまったのだが,XTC(実質的にはアンディ・パートリッジ個人らしいのだが)とやり合った「スカイラーキング」の方は,トッドの多彩なアイデアがアンディのエネルギーとぶつかってはじけた欠片を,コリン・モールディングが丁寧に繋ぎ合わせた結果,XTC史上屈指と言って良いくらい,柔らかく豊穣なニュアンスを湛えたアルバムとなった。個性が充分に発揮されたときの音像の構築力は,自我の強さと同様に折り紙付きだ。
そんな才人トッド・ラングレンは,これまでソロ及びバンド「ユートピア」の一員として,数多くの作品を発表してきた。アルバムとしては一般に,ヒット曲「Can We Still Be Friends?」が入った「Hermit of Mink Hollow」や,同様に「Hello It's Me」や「I Saw The Light」を含む「Something/Anything? 」が代表作として語られることが多いが,ここでは彼のソング・ライティング能力の高さを最大限に発揮した逸品が詰まった本作を挙げておきたい。
ニック・デカロのエヴァグリーン「イタリアン・グラフィティ」でも取り上げられた名曲「Wailing Wall」を筆頭に,多重録音によるトッドのコーラスの美しさを前面に打ち出した曲がずらりと並んでいるが,時代を超えて鑑賞に堪えられる作品となった一番の理由は,メロディと細部の響きとの相関を深く掘り下げたプロダクションにある。その姿勢には,男版「吉田美奈子」とも言える,音に対する強い自信と自負が感じられる(喩えが逆か?)。
アルバムの最後に置かれた,ピアノとトッドのヴォーカルだけで綴られる1分に満たない「Remember Me」の余韻が描き出す「明るい孤独」は,21世紀に入って10年近く経った今もまだ私の心を震わせ続けている。
天才ミュージシャンの呼び声高く,プロデューサーとしても数多くの傑作を残してきたトッド・ラングレンだが,ミュージシャンの間での評価と一般リスナーにおける知名度の落差が,これ程大きいアーティストもそうはいないかもしれない。ひょっとするとアーティストとしてのクリエイティビティーよりも,ビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォエバー」の完全コピーというパフォーマンスの方が有名かもしれない,というくらいに。
その手腕を買われてビッグ・アーティストのプロデュースを引き受けながら,強すぎる個性と妥協を許さない姿勢故に,アーティストと衝突を繰り返して来たことでも有名だ。特にザ・バンドとXTCという,私のご贔屓バンドと繰り広げたバトルは特に激しかったと言われている。
その結果はと言うと,当時やや停滞期に入りかけていたザ・バンドと組んだ「カフーツ」は,トッドとロビー・ロバートソンとの仲裁役の不在もあったのか,残念ながら空中分解に近い結果に終わってしまったのだが,XTC(実質的にはアンディ・パートリッジ個人らしいのだが)とやり合った「スカイラーキング」の方は,トッドの多彩なアイデアがアンディのエネルギーとぶつかってはじけた欠片を,コリン・モールディングが丁寧に繋ぎ合わせた結果,XTC史上屈指と言って良いくらい,柔らかく豊穣なニュアンスを湛えたアルバムとなった。個性が充分に発揮されたときの音像の構築力は,自我の強さと同様に折り紙付きだ。
そんな才人トッド・ラングレンは,これまでソロ及びバンド「ユートピア」の一員として,数多くの作品を発表してきた。アルバムとしては一般に,ヒット曲「Can We Still Be Friends?」が入った「Hermit of Mink Hollow」や,同様に「Hello It's Me」や「I Saw The Light」を含む「Something/Anything? 」が代表作として語られることが多いが,ここでは彼のソング・ライティング能力の高さを最大限に発揮した逸品が詰まった本作を挙げておきたい。
ニック・デカロのエヴァグリーン「イタリアン・グラフィティ」でも取り上げられた名曲「Wailing Wall」を筆頭に,多重録音によるトッドのコーラスの美しさを前面に打ち出した曲がずらりと並んでいるが,時代を超えて鑑賞に堪えられる作品となった一番の理由は,メロディと細部の響きとの相関を深く掘り下げたプロダクションにある。その姿勢には,男版「吉田美奈子」とも言える,音に対する強い自信と自負が感じられる(喩えが逆か?)。
アルバムの最後に置かれた,ピアノとトッドのヴォーカルだけで綴られる1分に満たない「Remember Me」の余韻が描き出す「明るい孤独」は,21世紀に入って10年近く経った今もまだ私の心を震わせ続けている。