子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ヤング@ハート」:音楽の魔法が信じられない人は今すぐ劇場へ

2008年11月26日 23時23分07秒 | 映画(新作レヴュー)
マサチューセッツ州にある平均年齢80歳の混声合唱団が開くコンサートと,そこに到る7週間の足取りをヴィデオカメラで追いかけたシンプルなドキュメンタリー。それなのに,何がどうしてそうなったのかはいまだに判然としないのだが,ラストのコンサートでソニック・ユースの「SCHIZOPHRENIA」が始まった瞬間に涙腺の堰が崩れ落ち,クレジットが終わるまで涙が止まることはなかった。音楽,映画,そして何より「人間」が持ち得る,人の心を動かす力というものを体感する108分だ。

92歳のアイリーンが,小股の切れ上がったいい女になりきって唄うのは,クラッシュ後期のヒット作「SHOULD I STAY OR SHOULD I GO」。寿命が尽きる間際にいる,という存在感を超えた得体の知れない迫力に,まずオープニングから圧倒される。
「生に幕を引く,そのついでみたいなもんだ」。これが最後のステージになりますかと問われた80歳のフレッドは,鼻から酸素を吸入しながら淡々とこう答えつつも,ノートパソコンでコールドプレイの「Fix You」のプロモーションヴィデオを観て,闘志を燃やす。

音楽監督のボブが選択する曲は,クラシカルな歌曲ではなく,トラディショナルなフォークソングでもなく,ビートルズでもない。老若男女,世代性別人種を越えて愛されている「名曲」ではなくとも,メンバーの個性を活かして聴衆のハートを掴めると判断されたナンバーならば,どれほど喧しく難しい曲であっても,彼らのレパートリーとして饗され,最後には見事に咀嚼されるのだ。

だが,彼らがボブから最初に曲を聞かされた瞬間から,遂にステージに上がる時までの道程はスリリングこの上ない。どうしてもタイミングを取れないレニーは,曲を覚えるためにボブから渡されたCDをためつすがめつした挙げ句に「どっちが上だっけ?」と問いかける。たった2行の歌詞を上手く唄えないスタンは,ボブに「もうやめよう」とダメ出しを出される。
何度も諦める寸前まで追い込まれながら,しかし彼らは,まるで長い人生において何度も死の淵に赴いた経験を活かすかのように,胸を張ってステージの中央に戻ってくる。「観客をノックアウトしてやる!」という単純で純粋な目的を掲げて。

「つらくなんかないわ。(亡くなった)彼らは私達が唄うことを願っているはずだから。私も死んだら7色の虹の上からみんなが唄うのを見ているわ」。年齢という宿命の前に屈した仲間の立て続けの死にも動ぜず,アイリーンはレディの品格を漂わせてこう宣う。
為すべきこと,出来ることをやり切ることによって,他の人間の心にコミットする,という高貴な営みが誘う本物の感動を,一人でも多くの人に味わってもらいたいと思う。「ノックアウト」されるって,こんなにも気持ち良いんですからっ!


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