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The Flaming Lips「Embryonic」:形態不詳,分類不能のプログレッシブ・ポップ

2009年11月24日 22時14分01秒 | 音楽(新作レヴュー)
今になって振り返れば,これまでの作品の端々に,こんなことをやらかしてもおかしくはない,という予兆を読み取ることは可能だ。しかし,ここまで徹底的に「アメリカ人がすなるプログレ」を突き詰めるとは思わなかった。
これは何処から見ても立派な「プログレ」であり,かつフレイミング・リップスの過激な面が強く出たポップ集でもある,壮大かつ新鮮な音楽実験リポートと呼ぶのが相応しい作品だ。

代表作と呼ばれている「The Soft Bulletin(1999)」の中の「Race For The Prize」のような,老若男女,誰が聞いても圧倒されるような素晴らしいポップ・チューンは見当たらない。それどころか,一般的なポップ・チューンで採用される,サビに向かって上り詰めていくような作りの曲は慎重に排除され,一度聴いても構造が掴まえられない,正に「プログレ」という呼び名が似つかわしい,ごつい形態の曲がずらりと18曲並んでいる。
だが,まるでスライがやりそうなファンクっぽいフレーズを延々と繰り返しながら,かなりいびつな曲の骨格に寄り添う空気を,様々なアイデアを寄せ集めて徐々に形作っていくような曲の作法は,聴く度に新鮮だ。

ざらざらした音の感触が前面に出ている一方,ところどころで聞こえてくるリフレインには,これまでのリップス特有の親しみやすさも感じられる。コインの独特の歌声は,新たなフォーマットにおいてもしっかりと「よれよれ」感を醸し出して健在だ。
フィッシュのようなジャムバンドが長時間ライブで生み出す一体感に匹敵する,ある種の高揚感が,スタジオにおける前衛的なレコーディングで生まれたことは間違いない。取っつきはやや悪いかもしれないが,長く付き合う内にどんどんと表情を変えていく面白さがある。前に進んでいる,という意味でも,今のリップスは正に「PROGRESSIVE」だ。
★★★★☆
(★★★★★が最高)


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