子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「メッセージ」:果敢に「言語」と「時間」に挑んだお姫さま

2017年06月03日 13時20分41秒 | 映画(新作レヴュー)
エイミー・アダムス。初めてスクリーンで彼女を観た,汚れたドレスに憤慨する「魔法にかけられて」のお茶目なお姫さま役から,もう10年が経つのか,と実に感慨深いものがある。最初から芸達者ではあったが,デヴィッド・O・ラッセル,ポール・トーマス=アンダーソン,ティム・バートンといった,傾向の異なる多数の秀英たちと組むことによって,そのスキルと美しさには更に磨きがかかってきているように見える。
ドゥニ・ヴィルヌーヴの新作「メッセージ」で,内省と分析力と勇気によって異星人とのコンタクトを成功させ,最後には人類を救うことになる言語学者という役を,地に足の着いたリアルな中年女性として造形し得たのは,彼女のキャリアがあってこそだったろう。

テッド・チャンの原作は未読だが,映画化された作品を観る限り,その世界観が深くて魅力的である一方,ドラマティックかつ視覚的な展開力には乏しいが故に,娯楽作品として成立させることが出来るかどうか,プロデューサーが制作に踏み切るには相当に逡巡があったのではと想像できる。
しかし飛ぶ鳥を落とす勢いで「考えさせるアクション映画」を撮り続けるヴィルヌーヴにメガホンを渡し,アダムスをヒロインに据えた選択は,見事に吉と出た。時間は決してリニアなものではない,という科学的かつ哲学的なテーマを,ここまで緊迫感を保ちつつ,最後までワクワクさせてくれる娯楽作品に仕立て上げることは,このコンビ以外では難しかったに違いない。

ハードなSF作品という枠組みで評価しても,異星人の造形や彼らのコンタクトの作法は,充分に高いハードルをクリアしているが,特に彼らが使う言語のユニークさ,更にはそれをルイーズ(エイミー・アダムス)が解読していくシークエンスは,未知のものに対して人間が取るべきアティテュードを示して感動的ですらある。
異星人の世界の成り立ちを理解したルイーズが,自らの身にやがて訪れる悲劇をも受容する姿は気高くも美しい。

UFOが地球を攻撃する訳でもなく,宇宙船が光速で飛行しながら撃ち合うシーンがある訳でもない。しかしこの作品を観た観客全てが「時系列」という言葉が持つ概念を問い返すことで得られるであろう知的でスリリングな面白さは,人工惑星の破壊シーンのカタルシスにひけを取らないと断言できる。ヴィルヌーヴの次作「ブレードランナー」の新作を待つファンも必見。
★★★★☆
(★★★★★が最高)


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