Music Mania

No Music No Life

年越し出来ない人

2023年01月01日 | 日常
大晦日の夜にニュースを見てたら、どこかの蕎麦屋さんで年越しそばを買う人の様子が映し出されていた。
そこにいた老人は言う。
「ここの蕎麦を食べないと年が越せないんだよ」
今日はこれについて考えてみたいと思う。

蕎麦を食べないと年を越せない。
年を越せないとはどういう状態なのだろう。
12月31日の11時59分59秒で時が止まり、2023年に入ることが出来なくなるのだろうか。

2023年1月1日の朝、家族は老人がいないことに気がつく。
「あれ?おじいちゃんがいないわ!」
「もしかして年越し蕎麦が食べられなかったんじゃないのか?」
「そうよ、そうに違いないわ」
その頃、今も2022年に留まっている老人は必死で年越し蕎麦を探していた。
しかし、家にはすでに蕎麦はない。
なぜそうなってしまったのだろう?
そうだ、NHK紅白歌合戦を見てた孫がとつぜんお腹が空いたとか言い出したので、つい自分の分の年越し蕎麦を食べさせてしまったのだ。
それで、家族で自分だけ蕎麦が食べられなかったのだ。
あゝなんてこった。
こんなことで家族と離れ離れになってしまうなんて。
もう会えないのだろうか。
自分はこのまま2022年のまま取り残されてしまうのだろうか。
そして孤独のまま死を迎えるのだろうか。
いやだ、もう一度みんなに会いたい。
老人は蕎麦を食べなかったことを心底悔やんだ。
知らない間に目から涙がこぼれていた。

老人は途方に暮れていた。
こんなことになったらもう酒でも飲むしかない。
肝臓に悪いからと制限されているが、そんなことはもうどうでもいい。
気の済むまでたらふく飲むのだ。
老人はトボトボと台所へむかった。
シンクの中には蕎麦を茹でた鍋が洗われずにそのまま残っていた。
後片付けくらいやっとけよ、全く。
そういえばいつも家事は妻に任せっきりだった。
ごめんな。
老人の目に妻の顔が浮かぶ。
仕方のないやつだな。
でもいいよ、今夜は俺が洗うから。
老人は鍋の中に水を入れようとしたとき、ふと目につくものがあった。
そこにあったのは、一本だけ残った蕎麦だった。
これは、もしかして…。
これを食べたら自分も2023年にいけるんじゃないのか。
老人は唾を飲み込み、指先で一本の蕎麦を持ち上げた。
そしてそのまま口に入れた途端、気を失った。

老人の目が覚めたとき、家族は雑煮を食べていた。
「今日は何年の何日だ?」
「は?寝ぼけてんの?2023年の元旦じゃないの。まさかボケがはじまったの?」
あれは夢だったのだろうか。
老人は妻が入れてくれた熱い茶を一口飲み、窓の外を見た。
2023年の元旦は晴天だった。