Music Mania

No Music No Life

彼女がその名を知らない鳥たち

2021年05月30日 | 読書


少し前だけどナオちゃんのオススメで、沼田まほかるの「彼女がその名を知らない鳥たち」を読んだ。
すぐに内容に引き込まれて3日くらいで読破して、その結末に衝撃受けた。

沼田まほかるは前に「ユリゴコロ」というのを読んだ。
暗くて不気味で猟奇的な前半と、複雑な愛の形を表現した後半、それまで読んだことない質感のある作品でとてもよかった。
ついでに映画版も見たけど、前半の不気味な雰囲気がよく表現されてたと思う。

さて「彼女がその名を知らない鳥たち」、この題名からどういう内容なのかは全く想像出来ない。
主人公の十和子はいわゆるダメ人間である。
主人公と同棲する陣治、これまたちょっと種類は違うけどダメ人間である。
主人公の元カレの黒崎、これもまた上記の二人とはまた違うタイプのダメ人間で、後に主人公が惚れる水島もまたダメ人間という、主な登場人物全員なんらかのダメ人間なのだ。

十和子は生活の全てを陣治に頼りきってるくせに、この男のことが大嫌いだと思ってる。
毎日、これでもかと罵詈雑言を並べ立て、自分は仕事も家事もしない。
陣治は、女性から見て「結婚したくない男ナンバーワン」みたいな男で、下品、不潔、見栄っ張り、低収入、そして見た目もダサいオッサンだけど、十和子に対する愛だけはホンモノである。
黒崎はハンサムでハイセンスだけど、自分の出世のためなら女をモノのように扱い、ときには暴力も振るう、ダメ人間というより、人間のクズ。
水島も黒崎と同タイプだけど、ちょっとはマシか。

愛とはなんなのか、幸せとはなんなのかというのを改めて考えさせられる。
そして十和子が本当の愛に気がついたとき、それはもう遅すぎたのだ。
悲しすぎる結末にショックを受ける。

映画版もオススメとのことなので、また見たいと思う。

パリ万博の思惑

2021年05月29日 | 日常
5月26日放送のNHK「歴史探偵」は1867年のパリ万博だった。
慶応3年、幕府の権威がダダ下がり真っ只中のなか、今一度徳川幕府こそが日本唯一の政権であることを世界に知らしめるため、そして日本は欧米列強に負けない文明、文化がある国であることをアピールするため、パリ万博へ出展することになったのだった。
結果として、欧米に負けない文明、文化のある国であるアピールは成功する。
実際、日本のパビリオンは大人気で、ジャポニスムブームの火付け役となる。
しかし徳川幕府ここにあり、というアピールは失敗に終わる。
なぜなら、薩摩藩が薩摩琉球国として、まるで一個の独立国家であるようなイメージを持たれてしまうのである。

このときの幕府側の関係者に渋沢栄一もいたらしい。
万博が終わってからもしばらくパリに滞在していた栄一たちだが、日本国内では大政奉還が行われるなど混乱が極まり、仕送りもなくなり資金が底をついたという。
そのため資金繰りに奔走し、すでにこのとき商才を発揮している。

結局、栄一たちが帰国したころにはすでに徳川幕府はなくなっており、最後の将軍である徳川慶喜は謹慎していた。
幕府の命運をかけた渡仏だったのに叶わなかったわけだが、そのかわりヨーロッパ文明を目の当たりにするというかけがえのない経験が、後に生かされることになったようだ。

戦いの音楽史

2021年05月29日 | 読書


お馴染み、みのミュージックのみの氏による初の著書である「戦いの音楽史」を読んだ。
今の若手でみの氏ほど音楽を聴き、音楽を分析し、音楽を語れる人間はいない。
そんな彼が全力を注いで書いた本、全音楽ファンは読むべきなのだ。

今回、極力自分の主観を排除し客観的な目で音楽史を書いたという。
その始まりはなんと黒人の奴隷制度からスタートする。
奴隷制度によりアメリカ大陸で働かされた黒人たちの音楽、ここにポピュラーミュージックの原点を置いている。
そこへヨーロッパからの移民によるフォークミュージックやカントリーミュージックがブレンドされていく。
その後、ブルースの誕生、ロックンロール、ビートルズと、お馴染みのポピュラーミュージック史に繋がっていくのだ。

この本での音楽史は、あくまでも大衆音楽の歴史であり、クラシック音楽についてはほとんど触れていない。
またジャズについても深掘りはされておらず、ロック、ポップス、R &Bが中心となる。
ただし、いくらみの氏といえど、本一冊で書ける分量は限られている。
さらに細かい分析はYouTubeを見ていただくとして、歴史の全体像を見るにはとてもいい内容だ。

僕はこれを読んで、いかに木を見て森を見ていなかったかを思い知った。
部分的には、もしかすると僕の方が詳しいところもあるかもしれない。
しかし、大衆音楽には時期というものが重要で、そういう全体像が見えていないと、なぜそのアルバムは名盤とされるのか、なぜこのタイミングでこれが発表されたのかがわからなくなるのだ。
そういうことを含め、ポピュラー音楽の全体像が少しとはいえわかるようになったのはよかった。

長篠の戦いの真相

2021年05月23日 | 日常


5月19日放送のNHK歴史探偵は、長篠の戦いの真相に迫るものだった。

長篠の戦いはご存知1577年、織田信長が武田勝頼を打ち破った戦いで、戦国最強を謳われた武田騎馬軍団を鉄砲隊が撃破した戦いとして有名である。
司馬遼太郎の「国盗り物語」では「世界史上初の鉄砲による一斉射撃が行われた」と書かれ、映画「影武者」ではまるで「長篠合戦図屏風」を実写化したみたいな合戦の様子が再現された。
その他、大河ドラマとかでもよく取り上げられる有名な戦いである。

ただしよく考えると、当時の火縄銃の射程距離、命中率、騎馬隊のスピードなどを考えると映画やドラマみたいな、一瞬にして騎馬軍団全滅みたいにはならないと思われる。
けっこう昔から専門家からは指摘されていて、おそらく司馬遼太郎も黒澤明もそんなことは百も承知だっただろう。
でも、戦国最強の軍団が新兵器の登場により、革命的に敗北する方がよほどドラマチックなので、新しい歴史の始まりを予感させる従来型のシーンを採用したと思われる。

ではまず従来型の定説をおさらいしておこう。

・信長は三段撃ち(一人目が狙って撃つ間に二人目と三人目は玉込めなどの準備をし、一人目が撃ったら速やかに後ろに下がって準備に入る。二人目が狙って撃つとまた後ろに下がり、三人目が撃つ、これを繰り返す)を考案し、鉄砲の効率の悪さを改善した
・武田勝頼は鉄砲を軽視し、騎馬軍団が最強だと信じて疑わなかった
・騎馬軍団は突撃してするたびに鉄砲隊になぎ倒されて全滅した

まず、当時の火縄銃は射程50メートル。
三段撃ちは二発目を打つまで20秒以上かかる。
また一斉射撃を行うには一番遅い人を待ってからでなければならず、時間がかかる。
対して騎馬軍団の速度は速く、射程の50メートルをわすが4秒で走る。

実際の合戦を想定してシミュレーションした結果、鉄砲隊は準備の出来た人から次々と撃っていくスタイルではなかったか?とされ、専門家の間にでもその説を推す人が多いらしい。
また武田勝頼は鉄砲の有効性を理解していて、ちゃんと武田軍にも1000人ほど鉄砲隊がいたという。
ただし弱点があり、地域的に鉛が入手困難だったため、玉の原料として銅銭を溶かして作っていたとされ、これだと生産力が大幅に悪いようだ。
また、合戦の直前に長篠城の戦いがあり、かなり玉の消耗があったとされ、鉄砲隊一人当たり50発くらいしかなかったという。
対して織田軍の鉄砲隊は、鉛の玉を一人当たり300発準備してあった。
織田軍の鉄砲隊は3000人、それぞれ300発づつ合計90万発に対し、武田軍は1000人50発合計5万発、この時点で大差がついていた。
さらに戦力でいうと、織田軍には徳川家康の軍もついていて合計3万8000人、兵数としては武田軍1万5000人の倍以上いたのだ。
つまり、戦う前から勝敗が決まってるようなものだったのだ。

実際の戦いは、両軍の鉄砲隊による撃ち合いから始まったとされる。
映画やドラマのようは広大な平原ではなく、川を挟んだ田園地帯で、攻め手である武田軍は街道沿いを中心に攻撃を行った。
劣勢の武田軍は想像以上に善戦していて、織田軍の被害も大きかった。
それでも武田軍が突破出来ないのは、実は織田軍は決戦前に夜戦築城を行っていたのだった。
川を堀代わりとし、騎馬軍団を防ぐ馬防柵を三重に張り巡らし、さらに馬防柵の前には逆茂木(切った木を設置して敵の侵入を防ぐもの)まで置かれていたのだ。
こうして午前6時頃から始まった戦いは午後2時頃に勝敗が決したのだった。

シカゴ・トランジット・オーソリティ

2021年05月22日 | 音楽
もう何年前だったか忘れたけど、CD格安ボックスセットでシカゴの10枚組セットというのがあった。
たしか3,000円くらいだったと思う。
初期のシカゴはLP時代は2枚組が多いので、10枚組とはいっても実際には15枚組くらいに相当する超お買い得商品だった。
初期10枚組と後期10枚組があって、ずっと気になってたんだけど買わなかった理由は、あまりにたくさんのCDを買っちゃうと精神的に圧倒されてしまうというか、買っただけで満足してしまうというか、きちんと聴けない気がしたからだ。

そして今。
そういう悩みもサブスクでは全く無用となった。
ようやくボチボチとマイペースでシカゴを楽しんでいこうと思う。

シカゴはわりと好きなバンドだけど、2枚組ベストの他アルバム2枚しか聴いていない。
ライブも行くつもりでけっこういい席を取ったんだけど、直前になって来日キャンセルとなり行けなかった。
後日振替公演が発表されたけど、何故か名古屋公演がなかった。
チケットがあまり売れてなかったのかもしれない。

と前置きが長くなったけど、衝撃のデビューアルバムにして大名盤との誉高い「シカゴの軌跡」である。
デビューアルバムなのにLP2枚組という強気の設定で発売されたようだけど、当時の若者がこれを買うのはかなり勇気がいったのではないだろうか。
まだなんの定評もないバンドのレコードを高価格の2枚組LP、おそらく今の金額に換算すると1万円以上になるんだろうけど、とくにティーンエイジャーには厳しい値段だ。
でも勇気を出して清水の舞台から飛び降りた人は、きっと買ってよかったと思ったに違いない。

1969年に発表されたこのアルバムは、いかにも1969年のロックという感じで、LP片面3曲づつ合計12曲、つまり1曲が長いのである。
短い曲もあるんだけど、その分他の曲はもっと長い。
分厚いホーンセクション、長い長いギターソロ、インプロ曲など、当時のニューロック好きが満足出来る内容だと思う。
メンバーの演奏スキルは非常に高く、複雑なアンサンブルを難なくこなしてるところは流石だ。
そして、歌メロはポップな曲が多い。
この辺は同時代のハードロックやプログレより親しみやすいと思う。
よくシカゴは80年代にポップ化したみたいに言われるけど、デビューから現在まで一貫してポップさを持ち合わせているのだ。
とくに旧LP1枚目に相当する前半は、このままベストアルバムとして通用するくらいポップで完成度が高い。

Introduction (2002 Remaster)