台風崩れの低気圧が去って、夏に戻った感のある日曜。
低山に行くにはまだ暑いので、都内の博物館見学でもしようかと、行くあてを探した。
23区内から候補にあがったのは葛飾区にある「葛飾柴又寅さん記念館」。
普段なら、今更”寅さん”でもないし…となるのだが、たまたま就寝前のビデオ鑑賞で「男はつらいよ」第1話を見たばかり。
今なら、寅さんが頭の中にいる。
それに加えて、寺巡りの対象となる柴又帝釈天(日蓮宗)は、柴又七福神の1つで毘沙門天を祀っているという。
1つ前の記事にあるように、我が部屋に毘沙門天をお迎えしたばかりなので、これはいい機会。
こういう機会の”巡り合わせ”(共時性)は易学的に意味がありそうなので、大切にしたい。
ということで、京成線に乗って高砂で乗り換え、1つ先の柴又駅で降りる。
駅構内が撮影に使われたので、もう駅のホームから「寅さん」の存在感があり、
改札を出た駅前には、旅立とうとする寅さん(渥美清)と彼を見送る妹さくら(倍賞千恵子)の銅像が距離を置いて立っている(写真)。
まさに二人の別離のロケシーンに遭遇しているかのよう(寅さんは永遠に旅立ってしまった)。
観光マップを入手し、帝釈天の参道に入る手前で、左にずれて、町中華で五目焼きそばを食べる(800円)。
参道には、映画にちなんだ名物的な定食を出す店などがあるのだが、定食は私には量が多すぎる。
むしろ訪問地の町中華で五目焼きそばを食べるのが、私なりの楽しみなのだ(微妙に具材が異なる)。
映画にも出てくる参道(団子屋の「とらや」も健在)は、それなりに観光客で賑わっている。
なにしろ、この界隈は国の「重要文化的景観」に都内で最初に選ばれた地で、観光に値する。
参道を越えてまずは帝釈天(題経寺)にお参り。
帝釈堂内に上がれて、厨子に収まった帝釈天を拝む(ここにも神社式の二拍手をする人がいた)。
堂外壁の木彫と和風庭園が有料で見学できるというので400円払って見学した。
堂の外周に彫られた木彫は、昭和初期の地元の彫刻家たちによるもので、法華経のシーンをかなり精巧に描いている(写真はその1つで「長者宅の火災」)。
堂の外壁をすっぽり覆う保存措置がされており、いずれ100年もすれば自治体レベルの文化財になろう。
庭園には降りれないが、渡り廊下で一周できる。
御朱印はあるが御影は販売されてなかった。
寺を出て、江戸川に向かって歩いて、山本亭という古民家(カフェ)を通り抜け、公園内の寅さん記念館に入る(500円)。
まずは寅さんの生い立ちの立体紙芝居があり、先に進むといよいよ映画の世界となって、「とらや」の店部分と内側の居間、そこから続く裏庭そして隣のタコ社長経営の印刷所のセットが続く。
これらは実際に撮影に使われたセットで、この記念館に保存されているのだ。
第1話と第2話を見たばかりなので、とらやの居間にある階段(写真:寅さんが上がるときに梁に頭を数回ぶつけた)が気になり、階段の上を覗くと、階段の上がった所まであり、その先の2階部分はなかった。
印刷所のセットでは、当時の活版印刷の設備があり、我が家にも昔、同じ金属製の活字を使うタイプライターがあったのを思い出した。
柴又の街並みさらに柴又駅の再現の所で、現在の京成金町線(高砂と金町を結ぶ)が、間にあるのが柴又駅1つだけのやけに短い支線で、さらに高砂で乗り換える時、同じ会社の支線なのに、他社の線に乗り換えるような改札を2回通る理由がわかった。
この線は、元は帝釈天の庚申の日の参詣用に作られた「帝釈人車鉄道」という人力の鉄路で、ロープウェイの箱程度の車両(6-10人)を人が後ろから押すのだ(明治32年)。
そのジオラマと復元された車両も展示してある。
それが後年、京成電鉄の支線として吸収されたわけである。
実に柴又は帝釈天によって成り立っていた所で、境内には湧水もあって、「帝釈天で産湯を使い」ということは住民にも恩恵があったのだろう。
あと監督の山田洋次ミュージアムが別空間にある。
記念館を出て、同じ公園続きの江戸川の堤防に進む。
「男はつらいよ」のシーンは江戸川の堤防上を歩く寅さんで始まる。
寅さんが旅先から帰ってくる時、まずはここを歩いて、じっくり地元の風景・匂いを味わいたい、という気持ちはよくわかる。
その堤防の先、江戸川に「矢切の渡し」が今でも営業している。
寅さんが旅立つ時、この矢切の渡しの舟に乗って柴又を後にするシーンが第1話にあるが、現実には向こう岸は千葉県市川市の畑で旅のルートになる場所ではない(柴又駅に向かう方が現実的)。
でも絵になるシーンだったので、ぜひ渡し舟に乗ってみたい(一人200円)。
今ではモーター付きの渡し舟なので、直線で対岸に向かえばあっという間なのだが、そこはあえてS字状に進んでくれて、川の風景を味わえる(写真)。
江戸川は両岸に護岸壁がなく、自然状態になっているのがまたいい。
舟が進む川面には、遠目に見て数十センチはある魚があちこちで飛び跳ねる。
船頭に尋ねると、ボラだという。
魚ながら、水中から外(空中)に超出したいと志向する種の中から、我々の先祖たる陸生動物が誕生したのだ。
舟が対岸(千葉県)に着いたのでとりあえず降りるが、畑の中ですることもないので、また次の便で戻る(すなわち往復400円。営業時間内に客がいるタイミングで出る)。
川を渡るだけの短い舟旅だが、こうして人が歩けない水面を移動するのも、貴重な経験をした感じで楽しい(川や湖の舟巡りも趣味にしたいと思っている)。
往路を戻り、途中参道の店で団子を土産に買い、柴又駅に戻った。
今夜も「男はつらいよ」を観ることにしよう。