ある人を接待しようと思い、候補にした店を実際に見るため、名古屋の繁華街である栄に行った。
名古屋にいても毎日東端の棲み家と市外の勤務先の往復だけなので、他の街にはとんと足を運ばない。
栄に降り立った(ここに行く公共交通機関は地下鉄だから正しくは「登り上る」)のも1年以上振りになってしまった。
街の一画に存在感のあった明治屋は閉店し、「明治屋ビル」だけが残っている(地下街から行ける成城石井に客足を奪われたか)。
その隣の丸善(本のデパート)はなんとビルごとなくなって広い駐車場になっていた。
うーん、この変化は”発展”とは言い難い(”新陳代謝”とは言えるか)。
裏通りに入ると、夜の街の昼の姿。
夜のバーやスナックの妖艶な女性の、昼のスッピンでラフな姿のように、夜には隠されるアラがあらわで不必要な生活臭が漂う。
目当ての店に達する。
初見なので軽くランチで味見をしようと思っていたら、そのランチは平日のみだった。
この店のやや向いに、あんかけスパ発祥の店がある。
名古屋で外食するなら、まずはあんかけスパを選ぶのが私だ。
なので迷わず、店への階段を上がり、入口に板書されたメニュー(品名だけ)を眺める。
すると中から扉が開いて、中に詳しいメニューがあるからどうぞと招き入れられた。
12時の15分前なので、昼の混雑直前の時間だ。
人差指を立てて1名と名乗ると、招き入れた年配の女性は、店内を一瞥して、私を窓側の4人席に案内してくれた。
店の中側には半分の机の2人席が空いているし、さらには一人用のカウンタ席もあるのに。
メニューをもってきましょうかと言うので、お願いした。
あえてそれを聞くということは、この店に来る客の多くは、あんかけスパの常連で、 メニューなどいらないのだろう。
そんな中、入口で中に入らず、文字だけのメニューを眺めていた私は、あんかけスパが始めての観光客風情に見えたようだ。
比較的よい席に案内してくれたのも、それで納得できる。
実際、私はこの歳になってもこの世界に馴染めず、いつまでたっても初心者のように自信なさげでいるのも確かだ。
本当は、私はあんかけスパの店には数えきれないくらい入っており、注文するのもミラネーズ、ミラカン、カトールフィッシュ、シャンピニオンのどれかから選ぶのでメニューはなくてすむ。
でもせっかくなので、期待にこたえて初心者を演じるため(演じ慣れている)、メニューをじっくり見て、そのあげく最初に目に入った本日のランチの「エビフライ+ミラカン」を指さした。
名古屋に初めて来たので”エビフリャー ”を食べてみたい、という観光客を演じ通そう。
あんかけスパ(あるいはスバゲッティ)とエビフライという組合せは初めてで、スパが盛られた皿の上の方にエビフライが一尾載っている。
いつものようにあんと具とパスタをフォークにからめて食べる。
この店にはあんかけスバ店によくあるパルメザンチーズが卓上にない(発祥の頃はなかったのか)。
半分ほど食べて、エビフライに手をつけていないことに気づいた。
さてエビフライはどのタイミングで食べたらいいのか。
そもそも最初に食べるべきだったか。
いや、私はあんかけスパを食べたかったのだから、食べたいものから始めてよいはずだ。
実際、皿が供された時、エビフライは目に入ったが、私の食欲は100%ミラカンに向っていた。
この選択肢はもとよりありえない。
ではスパを食べ終わった最後にするか。
それだとせっかく特注のエビフライが、余り物の位置になってしまう。
それではあえて自ら率先して「エビフライ+」を注文した理由がなくなる。
そこでスパを半分食べた今こそが、エビフライを食べる時だという結論に達した。
そしてエビフライを一口かじった。
サクッと一口分だけ口に入った時思った。
何もここで一気にエビフライを食べなくても、しばらくはスパとエビフライとを交互に食べればいいのだ。
そうやってミラカンとエビフライを無事に食べ終え、店を出た。
すこし街を散歩して昼時をずらして、さきほどの接待用の店に入って、夜の利用について問い合わせた。
これで栄に来た用は澄んだ。
でもせっかく来たので、すぐには家に戻らず、しばらく歩くことにした。
まず向ったのは、大きな銀色の球が目立つ名古屋市科学館。
ここのプラネタリウムを一度観たいので、空席を期待したが、受付にある空席情報が表示されているモニターを見ると、午後ずっと遅くでないと空きがないので諦めた(いつまでたっても人気が衰えない)。
科学館のある白川公園には市立美術館もあり、東京の上野公園に対応する(規模はかなり小さいので”匹敵”はしない)。
名古屋が東京より規模を誇れるのは都心部の道路くらいかもしれないが(片側4車線)、東京でも皇居前は道路幅が広い。
その広い道路を渡って、大須に達した。
栄に来ると、どうしても大須にまで足を伸ばしたくなる。
大須に達したら、まずは大須観音に参拝する(ようにしている)。
先を急ぐので賽銭はなしだ。
観音近くにあった古書店は見当たらなかった。
けっこう楽しみだったのに。
大須に来たのも久しぶりなので、店がずいぶん入れ替わっていた。
私が大好きだったエスニック・グッズの店がほとんどなくなっていた。
趣味性の強いインテリアや小物なので、そうしょっちゅう買いに来ることもないしな。
でもバリ島に行くたびに食べていたミーゴレン(日本のカップやきそばの味)の即席麺が売っていたので種類の違う2袋を買った。
これで大須に来た意味があった。
大須の東側のアメ横ビルの方もだいぶ変化して、電気街的雰囲気はなくなっていた(師匠クラスの秋葉もそうだが)。
でも携帯充電器を探すとちゃんとあって、秋葉と値段も変わらないので買った。
これで大須に来た意味が増した。
実は帰京したら秋葉に寄って買うつもりだった。
そう、帰京すると毎回秋葉や池袋には足を伸ばす。
なのに名古屋ではめったに街に行かない(休日は名古屋にいない時が多いから)。
ここから広い道路を渡り返し(広すぎるので中央の公園部まで来て赤信号になってしまい、一度に渡り切れない)、矢場町を抜けて、パルコの前を通り(このあたりはおしゃれな繁華街)、パルコ正面の古書店はまだ健在だったのでひやかしに入って、さらに栄に北上して、地下鉄で帰った。
用があって栄に行っても、買物をするのは大須というパターンは今回もだった。