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蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

バックルーアラスカ紀行番外編ー

2005年06月09日 | 季節の便り・旅篇

 もう2年前になるだろうか。ロスに住む娘がジーンズ用のベルトに着ける一つのバックルを送ってくれた。「アメリカン・イーグル」の精悍な横顔が見事に彫り出されている逸品である。ズッシリと重い合金が黒ずんだあかがね色の光沢を帯びて、猛禽の風格を一段と高めている。
 メキシコのティワナで「貧乏プライス、見るだけタダね!」という売り込みの声に乗せられて、冷やかしに買ったベルトがある。本牛革という売り込みだったが、明らかに馬の一枚皮であり、紋様も型押ししただけの安物と承知で普段用に買ってきた。40ドルを20ドルにまけさせ、ホクホクしていたところ、後日ロスのメキシコ人街の屋台で遙かに安く売られていたという、お笑い付きのベルトである。さすがに、こんな安物に着けるには勿体なく、親しい友人に頼んで本格的革細工師に、バックルに相応しいベルトを作ってもらった。2枚あわせの牛革に全面細かい細工を彫り込んだ、これ又逸品というべき仕上がりだった。バックルとベルトの彫刻が調和し、しかも革が腰に馴染み、使い込む程に衣服にバックルが磨かれて次第に輝いてくる。私の自慢の愛用品である。
 その細工を頼んでくれた友人も又バックルのコレクションにハマッテおり、ネイティブ・アメリカンのアパッチ族の大酋長・ジェロニモの横顔を彫り込んだバックルなどをさりげなく着けてくる。いつか彼に面白いバックルをプレゼントしようと、海外に行くたびに心がけてきたが、その願いはまだ果たせていなかった。
 アラスカの州都ジュノーをクルーズで訪れたとき、街の土産物屋のショー・ウインドーで数点のバックルを見つけた。「あった!」と思わず心の中で快哉を叫んでいた。「ワタリガラスのトーテムを見たい!」というのが、この旅の大きな期待の一つだった。先住民クリンギット族やハイダ族に伝わる伝説や神話を彫りあげたトーテム・ポールに、熊、鷲、シャチ、鮭、ワタリガラス等が登場する。3番目の寄港地ケチカンにその期待があったのだが、ひと足早くこのジュノーで見つけたバックルに、その全ての紋様が彫り込まれていたのだ。
 残念ながらトーテムの紋様のバックルはひとつしなく、これはさすがに譲り難い。「ゴメンね!」と心で詫びながら、友人には後日シアトルのマーケットで見つけたイーグルの模様のバックルを持ち帰ることにした。
 今、やや膨れ始めた私の腰をキリリと締め上げるベルトの中央に、そのバックルが鈍く黒ずんだ輝きを見せている。アラスカ・クルーズの一番の土産である。いつもは外に垂らすシャツの裾をジーンズの中に押し込み、これ見よがしに歩く姿は我ながらは少し滑稽である。今のところ、まだ誰も気づいてくれない。
          (2005年6月:写真:トーテムのバックル)