蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

転寝から目覚めて

2019年08月02日 | 季節の便り・虫篇

 苛烈な日差しをものともせずに繁り続ける雑草を前に、ただ茫然と佇む。気温は37.3度と、今年の記録を更新した。「高温注意情報」という赤いテロップがテレビに流れる。「命の危険にかかわる暑さ」といわれても、この気紛れな気象をどうすればいいのだろう?
 いや、気紛れではない。年々「異常気象」という言葉が繰り返され、過去の異常は今は通常……その根底に、いつも「人間の営み」がある。愚行がある。
 ホモサピエンスは本当に叡智ある生き物なのだろうか?地球環境を破壊する愚かな動物は、懲りることなく更に破壊を加速し続けている。既に折り返し点を過ぎてしまった地球環境は、もう決して元に戻すことは出来ない。
 更に、自ら生み出したSNSという怪物が人間性さえ破壊し、会話能力さえ喪った歪な人間を大量に生み出している。電話を取れない若者が増えているというニュースに慄然とした。スマホという小さな密室に籠り、指先だけで、自ら名乗ることもなく、無責任に呟くことしか知らないから、電話が鳴ってもどう受け答えしていいかわからず立ち竦むという。

 数え上げればきりがない「人類滅亡」の予兆を感じながら、その悲惨な末路を見ることなく彼岸に渡れることを喜ぼう。いい時代に生きた、最後の世代かもしれないと思う。敗戦後の破壊し尽くされた大地で食べるものもない時代に育ち、無から有を生み出す喜びを実感しながら高度成長の企業戦士として働き、バブル崩壊と同時にリタイアして、13年間地域に奉仕し、そして今本当の「余生」の中にいる。曲がりくねった人生行路を振り返っても、そこには満ち潮しかない。

 少し痛めた腰がよくなったら、早朝の草取りという不毛の戦いを始めよう。昨日8月1日は、人工股関節置換手術1周年記念日だった。いまは何の違和感もなく、股関節を意識することもない。医術の進歩には、素直に感謝の頭を下げよう。
 今朝、カミさんに頼んで、数少なくなった山野草の鉢を真夏の棲家に移してもらった。日当たりを微妙に管理しなければならない山野草である。冬は日当たりのいいところに、そのあと半日陰に移し、この苛酷な日差しの真夏には、セミの誕生が終わった八朔の根方の日陰に移す。

 さて、昨日の「昆虫、やばいぜ!」の続き……。

 オオカバマダラという蝶がいる。アメリカ北東部から5000キロ離れたメキシコまで、1年に2度の南下と北上の大移動をする。北米で生まれたオオカバマダラは、秋になると南下を始め、温かいメキシコや南カリフォルニアの森で越冬する。その数、なんと数億頭!鈴なりになったオオカバマダラの重みで、枝が折れることもあるという。そして春には北上を開始し、世代交代を重ねながら北米に辿り着く。
 ところが、環境変化により食草の分布が北上し、オオカバマダラは更に長い距離を飛ばなければならなくなった。地域によっては、この20年間でその数が2割に激減しているという。
 しかし、ここからが「昆虫、すごいぜ!」ということになる。ある研究によると、150年前に比べオオカバマダラの翅の面積が4.9%広くなっているというのだ。
 より広くなった翅で上昇気流を捉え、より遠い距離を飛べるように進化……これこそ真の叡智、大自然の本能が生み出す生存への叡智である。
 廃炉に40年以上もかかり、人知では制御しきれない原発を、懲りることもなく再稼働するような大馬鹿ではない。
 
 外は煉獄!焼ける日差しの下、今日は元気なハンミョウさえ姿を見せない。カラッカラに乾いた洗濯物も、取り込むのは日が陰ってからにしよう。28度に控えた冷房でも、9度の温度差は厳しい。せめておとなしく夕方を待つぐらいの知恵しか、今日の私にはない。
             (2019年8月:写真:オオカバマダラ  ネットから借用)