例年より少し早めに我らが深浦康市九段が故郷に帰って来られた。今回は、先の奨励会三段リーグで見事に四段昇段を決めた一番弟子の佐々木大地君も一緒だった。
午後4時半頃、女房どのに車で送ってもらい、新装なった佐世保三ヶ町アーケード内のビルに入った中央公民館へ出向くと、深浦九段と佐々木大地新四段の指導対局が行われているところだった。
それも午後5時までの予定で、間もなくバタバタと将棋の盤駒の片付けが始まった。
指導対局を終えた深浦九段がすぐに私を認められ、寄ってきてくださった。互いに久しぶりの再会の挨拶を交わす。
その後、ロビーで深浦九段と佐々木新四段による即席のサイン会が開かれた。
深浦九段の揮毫(きごう)は、いつもの「英断」だ。佐々木四段はどんな言葉を選んだのだろうかと覗くと「大志」と揮毫していた。
ちなみに、我が家では錚々(そうそう)たるプロ棋士に揮毫していただいた数々の色紙が額縁に収められ廊下の壁面を飾っている。ある方にその様をギャラリーみたいですねとお褒めいただいたことがある。それほど、私はプロ棋士を敬愛してやまない。
佐々木新四段が最後の色紙に揮毫し終えたのを見計らい、彼のところへ歩を進め「佐々木くん、四段昇段おめでとう!」と握手を求め、「おじさん(私)のこと覚えている?」と訊ねてみた。
何せ彼が小学1年生、2年生の頃に「小学生名人戦」の県大会会場で出会った時以来だ。しかも、彼にとっては対戦相手の父親なんて、どうでもいい存在だ。記憶に留まっているはずがない。
ところがだ、案に相違して彼は、対戦相手のくるみさんだけでなく、その父親の私のことまでちゃんと覚えていた。
故米長邦雄永世棋聖にまつわる話の1つに「兄たちは頭が悪いから東大へ行ったが、自分は頭がい良いから将棋指しになった」という有名なエピソードがあるが、なるほど将棋指しの記憶力は半端無い。