太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

冷房車

2019-03-11 18:56:08 | 日記
その昔、自家用車にはエアコンなどついていなかった。

自家用車にエアコンが付き始めたのは、いつごろだっただろう。

近所に住むウサミさんのおばちゃんは、いつも着物に白い割烹着で、

下駄風のつっかけを、からからと音をたてて歩く。

真夏の午後、ウサミさんが、空っぽの買い物籠をさげてウチの前で立ち話をしている。

相手は、私の幼馴染の母親の、みっちゃんのママだ。

二人の声は大きいので、家の中にまで聞こえてくる。

「○○さん、ご夫婦で車で出かけたとこを見かけたんだけど、

この蒸し暑いのに車の窓を全部閉め切ってさぁ、あれじゃあ蒸し風呂だよ」

そう言うウサミさんに、みっちゃんのママが言う。

「冷房がついてるって見栄はりたいんだろけど、ご苦労なこったね」

夏休みで家にいた私は、塀ごしにそれを聞いていた。

エアコンがついている車に、『冷房車』というステッカーを貼っている人もいたのだ。

そんな話を、いつだったか若い人にしたら、

「東京の電車にも、弱冷房車ってステッカー、ありますよ」

と言った。

違う違う、そういうステッカーとは全然違う。

エアコンつきの車は見せびらかしたい自慢の種、というわけだ。

窓を閉め切って、汗が噴き出ても、さも冷房がついているように見せたいその気持ち。

庶民の見栄は、かなしくおかしい。

窓といえば、窓だって手動でくるくる回して開け閉めしていたのだ。

父が祖父と喧嘩の末に買ったブルーバードの窓がオートマティックで、

私は珍しくて何度も上げたり下げたりしたものだ。


「昔のことばっかりよく思い出すよ」

電話で母にそう言うと、

「あっはは!それが年をとるってことじゃないか」

と笑った。

中学高校や短大時代、二十代の頃のことなど、いくつもの前の過去世かと思うほど遠く、

記憶も断片的でしかない。

私はこれからも昔のことを思い出し続け、

比較的新しいことは忘れ続けてゆくんだろうか。

それが母の言うように、年をとるということなのであるなら

ま、順調に年をとっているということか。

























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