太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

バースディケーキの匂い

2023-01-04 08:05:25 | 日記
ろうそくの灯を吹き消した直後の、かすかな蝋の匂いが好きだ。
ただ、香りなどのついていない、普通のろうそくがいい。
義父はキャンドルが好きで、夕食のときにテーブルにキャンドルを灯すことが多い。
それを吹き消すのは必ず私。
一瞬だけたちのぼってすぐ消える、かすかな蝋の匂いは、バースディケーキの匂いだ。


日本でバースディケーキといったら、いちごのショートケーキ。
日本以外でもいちごのショートケーキは定番なのだと思っていたが、とんでもない勘違いだった。
アメリカのバースディケーキの色のどぎついことといったら・・・・
絵の具をチューブからそのままひねり出したような鮮やかな青や赤のクリームおおわれていて、どう見ても美味しそうではない。
白いクリームにいちごが乗った、いかにも控えめで上品なケーキは立派な日本の文化である。

ろうそくの話。
バースディケーキには小さなろうそくがついてくる。
溶けた蝋がケーキに垂れないうちに火を吹き消さねばならないが、全部のろうそくに灯をともし、誕生日の歌を歌っている間に蝋はどんどん溶けてしまい、生クリームの上に落ちたりする。
そして切り分けられたケーキは、少しだけ蝋の匂いがする。


私が子供の頃の正月三が日はデパートをはじめ、どの店も休みで、コンビニなどはまだなかったし、母は多忙でケーキを焼く余裕などあるはずもなく、1月2日生まれの私のバースディケーキが誕生日に間に合ったことはなかった。
それでも、何日か遅れのバースディケーキは特別なものだった。
当時は、今ほどケーキは日常的なものじゃなかったと思う。
ときどき日曜日にお出かけ用の服を着て、エナメル風の靴を履いて繁華街に行ったときに、「扇屋」でいちごのショートケーキを食べるのが楽しみだった。
ケーキがおいしい喫茶店に行ってケーキを食べる、ということをするようになったのは高校を卒業してからのことである。


夕食のあと、ろうそくを吹き消す。
目を閉じて、かすかな蝋の匂いを胸に吸い込む。
ケーキに刺した小さなろうそくの、下のほうが銀紙で包まれていた光景まで目に浮かぶ。
「おたんじょうびおめでとう」と書かれたチョコレートの板は、誕生日の人が食べることができるのだけれど、なぜかそれほど美味しくないのだった。
日々、思い出とか記憶を再生しながら人は生きているのかもしれない。