NHKの大相撲TV放送では「東方」が「左側」に、「西方」が「右側」に映し出されているが、この事に気づいている人はどれほどいるだろうか。恐らく意識して見ている人はあまりいないだろうから気づいていない人の方が多いかもしれない。また気づいている人でも、なぜこのようになっているのかという理由となると、それをご存知の方はほとんどいないだろうと思う。日本相撲協会はこれを当然の事としているようであるし、政府もNHKもこれまで、この事について取り立てて自ら進んで改革しようとしてきていないし、国民も主権者でありながら、ほとんどの人が気づいていないため、また気にかけていないために取り立てて問題提起してきていないまま当たり前のように今日に至っていると言ってよい。しかし、この理由は、最近たまたま表面化し、日本相撲協会がその姿勢を問われ改革を求められている、土俵の「女人禁制」の認識価値観と根っこを同じくする問題と言ってよいものなのである。
この発端は、テレビ放送が開始される以前にすでにあったのである。
1908年に東京相撲(1927年、東京相撲協会と大阪相撲協会が統一され大日本相撲協会となる。)が九州で地方巡業を行った際、相撲司の吉田追風が「行司溜まり」(行司が控える場所)が北方角にあるのはおかしいと指摘した事が始まりであった。つまり、彼が故事の「君子は南面す」に基づいて、「北」は天皇(天子)が観覧する位置であるから、そこに「行司」が控えるのは良くないと主張したのが発端なのである。
1909年に竣工した旧国技館においてもその指摘に基づいて、行司が天皇に背を向けないように、天覧用の玉座を「北側」に、行司溜まりを「南側」に設置したのである。そして、天皇から見ると、左側は「東」となり、右側は「西」という事になるのである。
そして、新憲法制定後のNHKTV放送は、中継を開始する際にもこの認識価値観を踏襲し、天覧席貴賓席の方角(北)からの天皇皇族主体の目線で放送を続けているという事なのである。ちなみに、今日の両国国技館における「東」は、実際は「北」の方角である。
それを主権者国民は疑問を感じる事なく受け入れているという事なのである。
(2021年5月24日投稿)