朝日新聞2024年12月29日付『時時刻刻』の「酒造り 守るため」に、軒先に青々とした「杉玉」が「新酒の完成を告げている」との記事を載せていた。「杉玉」は「酒林」ともいうが、かつて「杉玉」は酒屋の「看板」だったのであり、また看板の「元祖」でもあった。記事には、その「杉玉」がなぜ「酒屋の看板」となっていたのかの説明がなかったので紹介したい。
「杉」の「ヤニ」は、「フーゼル油」という油脂を含んでいる。この「フーゼル油」は「防腐作用」があり、酒屋はむかし「杉の新芽」をたくさん用意しておいて、「壺」に保存していたお酒が「腐り」かけると「杉の新芽」を漬け、腐るのを防いでいたのである。
奈良県では酒屋はむかし、「大神神社」という酒造りの神様を祀る神社が売っていた「杉の新芽」で作った「杉玉」を買ってきて上記の作業を行ったのであり、酒屋のシンボルとなったのである。しかし、江戸時代になると、「寒造り」技術の確立と、保存や運搬には「壺」から「杉樽」使用へと変化するようになり、特別に「杉の新芽」を必要とする事がなくなったようである。
ついでながら、「フーゼル油」は揮発性で、摂取すると「脳神経」をおかされて頭が痛くなる。お酒(日本酒)を「お燗」するのは、「フーゼル油」を揮発させるためなのである。
お酒(日本酒)は、原料の米の「でんぷん」が分解され、でんぷん→ブドウ糖→アルコールと変化(発酵)してできる。この過程は、蒸した米に麹菌を繁殖させた「麹」を加える事で促進される。「麹」と「酵母」(イースト菌)の働きによる発酵は、暑い夏の方が早いため、中世では旧暦8月から各種のお酒が造られた。しかし、雑菌の侵入も多く腐敗しやすかった。江戸時代元禄期になると、冬季に発酵温度を比較的低温に保ち、雑菌の侵入を巧妙に制御する「寒造り」の技術が確立し、現在に至るまでお酒造りの主流となった。
(2024年12月30日投稿)