2021年3月30日に菅自公政権文科省が2022年から使用する高校教科書の検定内容を発表した。「歴史総合」が来年22年から必修科目となり、すべての高校生が学ばなければならない科目となった。その検定の特徴をあげてみよう。
1923年9月に起きた関東大震災の際に日本の軍隊・警察や自警団などが犯した朝鮮人や中国人に対する虐殺事件についての記述は、日本政府の責任を明確にしていない曖昧な表現や植民地朝鮮に対する差別意識など虐殺の背景を説明していないものが多い。犠牲者の規模についても「多く」または「多数」という表現で、「虐殺」という表現も使わず「殺害」や「殺傷」と表現しているため、さも一部の人々の逸脱行為により起きた事件であるかのように誤解する恐れがある。
山川出版社と第一学習社の「歴史総合」は神聖天皇主権大日本帝国政府による韓国併合を扱う際、そのタイトルを「日本のアジア進出」と表現している。ここには、1982年に中曽根内閣が起こした歴史歪曲事件での『侵略』を『進出』へ書き換えたり、『外交権剥奪』を『接受』へと書き換えたのと同様の状況への回帰が見られる。
「竹島」については、安倍菅自公政権の「日本の領土」「韓国の不法占拠」という政府見解を「地理総合」や「公共」にそのまま記載させており、「歴史総合」には日本政府(神聖天皇主権大日本帝国政府とするべき)が1905年1月に閣議決定で「独島は日本領」としたと記載している。
これらに一貫してみられる菅自公政権の歴史認識は「神聖天皇主権大日本帝国政府の侵略や植民地支配という事実を欺き、隠蔽しようとするもの」という事になろう。
今回の検定で合格した「新しい歴史教科書をつくる会」(つくる会)執筆、自由社の「新しい歴史教科書」についても触れておこう。
関東大震災については、「朝鮮人虐殺」に関する記述は全くなされていない。神聖天皇主権大日本帝国政府による「朝鮮人強制動員被害者」や日本軍「慰安婦」についてもまったく記述はなされていない。
神聖天皇主権大日本帝国政府の「国定」歴史教科書の編集方針はどのようなものであったかについて、文部省の図書編集官として「国定」日本史教科書の編纂に当たっていた喜田貞吉(1871~1939)の『国史之教育』(1910年)により紹介しておこう。それには、
「歴史とは、➀学問として研究する歴史と、②一般世間の人の目に映ずる歴史と、③普通教育に応用する場合の3つがある。この間には余程の区別が必要である。➀の学問としての歴史は、遠慮会釈なく過去の真相を明らかにするのである。歴史の真実を隠し、美化する事があってはならないとしている。②の世俗の目に映ずる歴史は、この歴史は学問としての歴史を研究した人の目からすると、偏っている。一般世間の人には真相が分からないので、過去の人物や事件の像を、自分の考えを加味して勝手に描いているものであるとしている。③の普通教育向けの歴史は、歴史学からみると間違っていても、普通教育ではかえって利用できる事がある。日本の歴史は「大体において善美」であり、普通教育においては、この「大体」という事が何より大事である」としているのである。
つまり、「国定」歴史教科書とは、文部省が定めていた「国体の大要」を知らせ「国民たるの志操」を養うものとする日本史教育の指針からはずれる内容を子どもたちに教えてはならない、とするものであったのである。
喜田はまた教師が色々な歴史研究の成果を知っている場合に起こす「誤り」についても示しており、歴史学の専門誌や著作を読んで、それを子どもに話す教師の事を、「不心得な教師」と言っており、教師は研究をしてはいけないとしていたのである。神聖天皇主権大日本帝国の教育は政府の「意図」に沿った偏向した内容であったという事である。そして、菅自公政権は学習指導要領を私物化して実質的に国定による教科書編集制度への回帰を果たしたという事である。
(2021年4月4日投稿)