2017年、中高学校の学習指導要領改訂案の「本体」に、「尖閣諸島は我が国の固有の領土であり、領土問題は存在しない事を扱う事」という「政府見解」が盛り込まれた。同じ「政府見解」は3年前の2014年1月28日、安倍自公政権の意向で、教科書執筆者や授業の指針となる指導要領の「解説」に入れられたが、政府が法的拘束力をもつとする「本体」に盛り込んだという事は、政府の意向に沿った教科書の使用しか認めず、それに従わない教師に対して安倍自公政権が処分できる根拠となるという事であり、これは敗戦まで神聖天皇主権大日本帝国政府が教科書を「国定化」し、学校教師には「国定教科書」使用を義務づけていたのと同じ意味を持ち効力を発揮する。つまり、安倍自公政権は「教科書国定化」への地ならしをしているのであり、近い将来に「国定化」をめざしているのである。この改訂はこれまでの安倍自公政権が推奨する「育鵬社版」の採用促進運動を推し進める手法から、自己の政治権力にものを言わせて学習指導要領に法的拘束力がある事を利用して、安倍自公政権の意向に沿った「内容」へと、すべての「教科書」を統制し変えていく手法へと転換したという事であろう。そして、この手法を推し進める事によって、実質的には「国定」と言ってよい教科書を作ろうとしているのである。その事は、2017年2月2日の自民党本部で開かれた「領土に関する特命委員会」で、「領土関係の記載がやっと完成して誠に喜ばしい」と委員長の新藤義孝前総務相は改定内容を評価している事や、佐藤久彦参院議員も「指導要領に入ると先生は授業でパスできなくなる」と発言している事からもうかがえる。
主権者国民はこのような手法を許してはならない。この手法は学習指導要領を手前勝手に解釈し、なし崩しに変質させるものであって、非合法的で詐欺的手法であり、主権を持つ国民を愚弄した手法である。学習指導要領が法的拘束力をもつとされながら、安倍自公政権の恣意的な意向だけで変質させる事ができ、主権者国民に強制できるという指導要領の扱い自体が根本的な問題であるが、その現状を安倍自公政権が当然視し、国会でも問題視されず許している事に対して、主権者国民は異議を唱えるべきである。
※下記は今回のタイトルに関連する、2016年9月27日投稿の「尖閣・釣魚島の日中合意否定し脅威煽る自作自演で自衛隊増強を正当化する安倍政権」を再録したものです。ぜひ読んでください。
2016年9月24日の朝日新聞にNPO法人「言論NPO」の「日中共同世論調査」結果が載っていた。「良くない印象」を抱いていると回答したのは、日本側は91.6%(昨年88.8%)で、昨年より悪化した。その原因は「尖閣問題の影響」との事である。
なぜ、「尖閣問題」が影響したのか。それはほかでもなく安倍自公政権が中国批判を激化させ、中国を悪者に仕立てたという事である。そして、安倍自公政権に対して翼賛的姿勢に立つメディアの報道姿勢にある事は間違いない。両者は結託して中国に対する「悪印象」を意図的に国民に植え付けてきたのである。つまり、国民を洗脳してきたという事である。調査結果はその洗脳効果が表れているという事で、安倍自公政権やメディアはさぞご満悦であろう。
しかしそこには、安倍自公政権が卑劣な対中国政策をとっている事(その火付け役は、現在豊洲市場問題でも世間の顰蹙をかっている「石原慎太郎」である)と、メディアも安倍自公政権に翼賛的な情報を無責任に主権者国民に垂れ流し世論操作をしているという事が存在する事を主権者国民は知らねばならない。しかし、残念ながら主権者国民はまんまと騙されているのである。
さて、安倍自公政権の卑劣な対中国政策とはどういうものか。特に看過できない事は、安倍自公政権が2014年に、自ら中国政府との間で交わした「4項目の合意文書」への遵守姿勢である。つまり、合意を誠実に遵守しなかったという事である。
それまでの日中政府の関係を大まかに見ると、
1972年9月に日中国交正常化がなされた。その前の1969年ごろから台湾出身の米国留学生が中心となり、「保釣運動」という「釣魚島防衛運動」を起こし、米国政府が沖縄返還で「釣魚島」を日本に渡す事に反対していた。
その時、1972年7月に公明党委員長の竹入義勝が中国を訪問し、周恩来と会談し、国交正常化交渉において「尖閣・釣魚島」問題が争点となるかどうかを事前に探り、日本側の立場を伝えた。それは「竹入メモ」といわれるもので、そこには周恩来首相は「そうです、尖閣列島の問題にも触れる必要はありません。竹入先生も関心がなかったでしょう。私もなかったが石油の問題で歴史学者が問題にし、日本でも井上清さんが熱心です。この問題は重く見る必要はありません。平和五原則に則って国交回復する事に比べると問題になりません。」と述べたとしている。
また、『記録と考証 日中国交正常化・日中平和友好条約締結交渉』(岩波書店)によると、竹入が先に「尖閣の問題はどうなのか。これは日本の領土だと私は思う」と言うと、周恩来が笑いながら「いや我々も同じような見解を持っていますよ。この問題は重要ではありません。国交正常化に比べたら問題になりません。これはお互いに棚上げにして資源があるんだったら共同開発すればいい。」と述べている。
1978年10月に来日した鄧小平も「棚上げ論」を明言した。それは「尖閣列島を我々は釣魚島と呼ぶ。呼び名からして違う。確かにこの問題ついては双方に食い違いがある。国交正常化の際、双方はこれに触れないと約束した。今回、平和友好条約の際にも同じくこの問題に触れない事で一致した。中国人の知恵からして、こういう方法しか考えられない。というのは、この問題に触れると、はっきり言えなくなる。確かに一部の人はこういう問題を借りて中日関係に水を差したがっている。だから両国交渉の際は、この問題を避けるのがいいと思う。こういう問題は一時棚上げしても構わない。我々の世代の人間は知恵が足りない。我々のこの話し合いはまとまらないが、次の世代は我々よりもっと知恵があるだろう。その時はみんなが受け入れられる良い解決方法を見出せるだろう。」という内容である。
ところがその後初めて、1996年2月19日の衆院予算委員会において橋本龍太郎自民党政権の池田行彦外務大臣が「棚上げ論」を「否定」する。その内容は「尖閣列島につきましては、我が国の立場は、これは歴史的な経緯から言いましても、また国際法上から言いましても、我が国固有の領土であり、また、現にその地域を我が国が有効に支配している、こういう事でございますので、我が国としては、そもそも中国との間において尖閣列島をめぐる領有権の問題は存在しない、こういう立場をとっているところでございます。」というものである。
この時点のこの発言は、自民党日本政府が一方的に領土問題(棚上げ論)の存在を「否定」したという事を意味した。この事こそが自公政権日本政府側にとって、今日まで「漁船の領海侵犯」と解釈するなどして領有権に関係した問題の発生と捉える発端となっているのである。
「棚上げ論」とは日中双方が領有権を主張するという事を互いに認めるという事であるが、そのような事情から尖閣を含む北緯27度以南の水域は、日中両国政府が「漁業協定」で互いに「自国の漁船だけ」を取り締まる事も「文書」で確認している。中国からすればそこは中国に領有権(日本からすれば日本に領有権)があるので監理するために公船がパトロールするのは当たり前という事なのである。しかし、それを安倍自公政権は意図的に「領海侵犯」と解釈し、メディアはまたそれを主権者国民に対して「大本営発表的」報道(政府説明の鵜呑み)をし主権者国民の間に「中国に対する反感・嫌悪感」を醸成してきたのである。
しかし、その政策で自分の首を絞めた安倍自公政権はこの問題への新たな対応として、2014年11月に開催されたAPECの時点で、中国との間で文書で確認した。それが、4項目の合意文書である。その内容は、
1、双方は、日中間の4つの基本文書の諸原則と精神を遵守し、日中の戦略的互恵関係を引き続き発展させていく事を確認した。⇒基本文書とは①1972年の国交正常化時の「日中共同声明」、②1978年の「日中平和友好条約」、③1998年の江沢民来日時の「日中共同宣言」、④2008年の胡錦濤来日時の「戦略的互恵関係の包括的推進に関する日中共同声明」
2、双方は歴史を直視し、未来に向かうという精神に従い、両国関係に影響する政治的困難を克服する事で若干の認識の一致をみた。
3、双方は、尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じている事について異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避する事で意見の一致をみた。⇒、領土問題で見解が違う事、争いになっている事を認めているといえる(安倍自公政権は領土問題の存在を認めた事ではないとしているが)。
4、双方は、様々な多国間・二国間のチャンネルを活用して、政治・外交・安保対話を徐々に再開し、政治的相互信頼関係の構築に努める事につき意見の一致をみた。という内容である。 以上
安倍自公政権は、この合意では領土問題の存在を認めているが、しかしその後、安倍自公政権はこの合意を反故にし、主権者国民に対してはメディアと結託して、中国との間に領有権問題は存在しないとする立場を取り、中国による日本の領海への侵犯行為であるとする「間違った情報」を広め、それを口実にして「沖縄への自衛隊増強、兵器増強政策」を続けているという事なのである。それが「離島防衛・奪還」作戦であり、中谷防衛相は、「東シナ海で活動を強める中国を牽制し、南西地域の離島防衛を強化する」として、2016年1月31日に航空自衛隊沖縄那覇基地に第9航空団を編成すると発表し、与那国島に陸自駐屯地を2016年3月28日に設置するという政策を選択してきたという事である。
※安倍自公政権の尖閣・釣魚島に対する手法は米国の手法と同じで、自ら紛争の種を作っておきながら、脅威を煽り、それに対して善人面して相手を非難し攻撃する偽善者の謀略的手法である。
この度(2017年2月)公表の指導要領改訂案での「国旗国歌についての扱い」についても、その法律自体には拘束力を持たないにもかかわらず、「学習指導要領」に盛り込む事によって、拘束力をもたせる手法をとっている。今回改訂案は幼稚園(文科省管轄)の「教育要領」と、保育所(厚労省管轄)の「保育指針」(3歳以上を対象)に、これまでなかった「行事で国旗に親しむ」「国歌、唱歌、わらべうたや我が国の伝統的な遊びに親しむ」を盛り込み、それについて厚労省は「国旗掲揚や国歌斉唱を強制するものではない」としているが、安倍自公政権の手法から見れば、これが守られるとは到底考えられない。菅官房長官は2月15日、「従来、小中高校において、国旗や国旗の意義を理解させ尊重する態度を育てるよう指導している。小学校教育への円滑な接続を図る点からごく自然な事だ」と述べている事からも、安倍自公政権は前近代的な「自らが正義で法であり、法をどのように解釈し運用するしようとも、国民はその法に従うべきである」と考えているのである。かつての神聖天皇主権大日本帝国政府が、占領地域に対してはもちろんの事、自国民に対しても「ウソ」をついて騙したように。
※「国旗国歌についての扱い」については、別稿(カテゴリー「教育」)の「馳浩文科相は非常識で憲法無視。浅薄な思考による権利侵害。大臣の器ではない。罷免させるべきだ」や「改訂版:日の丸・君が代は国家神道(天皇教)のアイテムだ!要請は信教の自由を侵害する憲法違反だ!」を読んでください。
また、小学校の「体育」で「五輪・パラ」に関する指導や、中学校の「保健体育」の「体育理論」で「パラリンピックの意義や価値の指導」を新たに追加したが、「一過性の安倍自公政権のイベントである国際的スポーツ行事」を公教育の指導内容に盛り込むという点で、これも安倍自公政権が公教育を恣意的に利用し、変質させ私物化しているといえるもので、主権者国民は異議を唱えるべきである。
※「五輪・パラ教育」については、別稿(カテゴリー「教育」)の「『五輪・パラ教育』は戦時の国民精神総動員運動の安倍版、狙いは挙国一致精神の培養、その先は国家総動員法(緊急事態条項)成立」を読んでください。