2021年年2月14日からNHKの新しい「大河ドラマ」が懲りずに始まった。今回のタイトルは「青天を衝け」というもので、キーワードは「生き抜く」というものらしい。主人公は「渋沢栄一」(1840~1931)で明治時代に登場した大ブルジョアジーである。このドラマは、渋沢栄一のイメージを捏造美化し、神聖天皇主権大日本帝国政府の資本主義政策、さらに帝国主義政策を正当化するために偏った解釈を行い賛美するものであり、それを国民に刷り込もうとする(洗脳する)事を目的としたドラマである。同様の目的を持つ「エール」に続く第2弾ともいえる。
神聖天皇主権大日本帝国政府においては、日清戦争後の1895年3月頃を境に、「戦後経営」という言葉で表現した国策方針を決定した。それは対露戦争(日露戦争)にそなえての日本社会の帝国主義的編成替えの総体を指したが、それは主として軍備拡張、殖産興業、教育、植民地領有の4つから成り立っていた。
またその基軸は「軍拡」であり、山県有朋を代表とする軍部は、「東洋の盟主」としての地位を確保するためには軍事力増強が必要(軍事力こそ正義)である事を強調した。また、政府の大蔵・農商務省は軍拡と産業育成を同時に進めるべきであるとして、八幡製鉄所の創設、勧業銀行・農工銀行の設立、航海奨励法の制定などにより、軍拡を可能にする経済力の培養を目指した。
農商務省はまた農商工高等会議を開設し、日本のブルジョアジーのトップクラスを招き、彼らの意見を政策に反映させる事によって彼らの支持を得ながら進めた。そのトップクラスが渋沢栄一や益田孝などであった。
第2次山県内閣(1898.11.8~1900 .9.26)は第13回帝国議会で「地租増徴案」(軍拡費)を提出。その際、反対派の地主階級は「地租増徴反対同盟会」を結成し猛反対した。それに対して賛成派であるブルジョアジーは、渋沢栄一を会長として「地租増徴期成同盟会」を結成し反地主運動を行った。結局、山県の工作により大差で可決されたのである。
ちなみに、山県の工作の中には、衆議院の歳費を800円から2000円に引き上げる野党議員の買収もあった。このような事がまかり通ったのである。
渋沢栄一が労働組合にどのように対応したのかについても紹介しておこう。1919年(米騒動)以降労働組合の結成が急増(社会運動も発展)した。そのため帝国政府は、有産階級と無産階級の対立という事態への有産階級の対応策が、もはやこれまでの「専制」では時代遅れで、これからは「協調」の時代であるとの認識を強くする。原敬内閣(1918.9~21.11)の床次竹次郎内相は1919年1月、清浦圭吾、渋沢栄一らとともに「労働に偏せず、資本家に偏せず、純然たる第三者の立場」(労使協調)に立つ、労働問題解決のための民間機関設立を決めた。財界の要望の上に立って、同年8月閣僚・官僚・実業家・学者・宗教家など約230名で発起人会を開き、「協調会」をつくる事となった。
渋沢は政府の補助金と実業界からの寄付金600万円を資金とし、12月12日、財団法人 協調会を発足させた。会長は徳川家達、副会長は清原圭吾、大岡育造、渋沢栄一であった。設立趣意書には、「資本労働の協調は産業発達の第一義にして、又社会の平和を保する所以なり」とあり、社会政策に関する調査研究と政府への社会政策についての提言、労働争議の仲裁・調停などを行い、労使の協同調和の実現を目的とするものであった。
鉄道国有法制定(1906年3月31日公布)は、日本資本主義の確立期に入り、渋沢栄一らブルジョアジーが国有化推進を要求するようになった結果である。この際、衆議院で多数を占めた与党政友会は貴族院修正案を議事省略により強行採決した。この鉄道国有化は、アジア大陸侵略の体制(帝国主義体制)確立(1906年朝鮮京釜鉄道国有化、南満州鉄道株式会社創立)に大きな役割を果たすとともに、日本国内における金融資本支配の体制強化も促進したのである。
(2021年2月15日投稿)