2019年2月9日の朝日新聞社説「日韓の100年 歴史を誠実に見つめて」に、「韓国併合は合法か否か。この問題をめぐっては日韓国交正常化の際にも主張が対立し、最後は玉虫色で決着した。関係改善を優先するため、あえて断定を避けた政治的判断だった」との説明がなされていたが、これでは主権者国民に対して事実を正確に説明しておらず誤った認識を生む内容となっており、日本政府(自民党)側に都合の良い偏向した説明となっている。事実は、1910年8月22日の締結時、神聖天皇主権大日本帝国政府(伊藤博文主導)が軍事的威嚇などによって強制したものであり、「非合法」で「無効」あったとする韓国政府側の主張を日本政府側が頑として「認めなかった」ために対立し、日本政府側の主導により玉虫色で決着させたという事であり、その背後では、日韓国交正常化の早期実現を求める米国が特に韓国に対し圧力をかけていたために政治的判断という結果につながったという事である。このような認識は今日、歴史学会では定説である。にもかかわらず、現在においても朝日新聞はそれを認めていないような説明をしているといえるが、これが朝日新聞の立場という事なのだろうか。であれば朝日新聞も偏向している事となり、自民党政権を翼賛しているという事になる。
さて、韓国「併合」時、日本国民のほとんどは、その事を国威の発揚と国の発展として受け止めたようであるが、神聖天皇主権大日本帝国政府がその「併合」という文字(造語)を何故どのような意味を持たせて使用したのかを知る事はひじょうに重要である。その最適な証言史料が、当時、造語を考案した外務省政務局長であった倉知鉄吉の覚書である。それには「当時我官民間に韓国併合の論少なからざりしも、併合の思想未だ十分明確ならず、或は日韓両国対等にて合一するが如き思想あり、又或は墺匈国(オーストリア=ハンガリー帝国、連邦国家)の如き種類の国家を作るの意味に解する者あり、従って文字も亦合邦或は合併等の字を用いたりしが、自分は韓国が全然廃滅に帰して帝国領土の一部となるの意を明らかにすると同時に、その語調の余りに過激ならざる文字を選ばんと欲し、種々苦慮したるも遂に適当の文字を発見すること能わず、因りて当時未だ一般に用いられ居らざる文字を選ぶ方得策と認め、併合なる文字を前記文書に用いたり」とある。つまり、「韓国(朝鮮民族)を植民地として支配下に置いた(植民地とした)」という事実を朝鮮民族に対し隠蔽し欺瞞するための言葉であり、いわゆる「盗人の論理」によるものであったのだ。
「合法とは何か」という「定義」、つまり、条約を締結した際、また締結に至るまでに、「両国が対等な立場にあり、相手国からの強制や威嚇を伴わず、自由な本意に基づいて締結されたかどうかという点」、に照らせば、「合法か否か」の真実は自ずから明確となるはずであり、神聖天皇主権大日本帝国政府が非合法の手法によって締結させた事は研究成果によりすでに遠い過去において明らかになっている。別の言い方をすれば、欧米諸国などに対しても、非合法である事を隠蔽するためにわざわざ条文を韓国側から併合を申し入れた表現としたのであり、第1条では「韓国皇帝陛下は韓国全部に関する一切の統治権を完全且永久に日本国皇帝陛下に譲与す」とし、第2条では「日本国皇帝陛下は前条に掲げたる譲与を受諾し且全然韓国を日本帝国に併合する事を承諾す」としたのである。そして、韓国人民を欺瞞し反抗をそらし懐柔するために、韓国の皇族などを日本の華族制度のなかに組み込む事などをも行ったのである。第3条では「日本国皇帝陛下は韓国皇帝陛下太皇帝陛下並びにその后妃及び後裔をして各その地位に応じ相当なる尊称威厳及び名誉を享有せしめ且之を保持するに十分なる歳費を供給すべき事を約す」。第4条では「日本国皇帝陛下は前条以外の韓国皇族及びその後裔に対し各相当の名誉及び待遇を享有せしめ且之を維持するに必要なる資金を供与する事を約す」。第5条では「日本国皇帝陛下は勲功ある韓人にして特に表彰をなすを適当なりと認めたる者に対し栄爵を授け且恩金を与うべし」。第6条では「日本国政府は前記併合の結果として全然韓国の施政を担任し同地に施行する法規を遵守する韓人の身体及び財産に対し十分なる保護を与え且その福利の増進を図るべし」。第7条では「日本国政府は誠意忠実に新制度を尊重する韓人にして相当の資格ある者を事情の許す限り韓国における帝国官吏に登用すべし」などとしたのである。
さらには、この条約は、朝鮮人民の反撃を恐れて、締結の1週間後の29日公示したのである。
最後に、その公示と同時に発せられた明治天皇の「詔書」を紹介しておこう。「朕、東洋の平和を永遠に維持し、帝国の安全を将来に保障するの必要なるをおもい、又常に韓国が禍乱の淵源たるに顧み、曩(さき)に朕の政府をして韓国政府と協定せしめ、韓国を帝国の保護の下に置き、以て禍源を杜絶し平和を確保せむことを期せり、爾来時を経ること4年有余、その間朕の政府は鋭意韓国施政の改善に努め、その成績亦見るべきものありと雖も、韓国の現制は尚未だ治安の保持を完するに足らず、疑懼(ぎぐ)の念毎に国内に充溢し、民その堵に安んぜず公共の安寧を維持し民衆の福利を増進せんが為には革新を現制に加えるの避くべからざる事瞭然たるに至れり、朕は韓国皇帝陛下とともにこの事態に鑑み韓国を挙げて日本帝国に併合し以て時勢の要求に応ずるの已むを得ざるものあるをおもい、ここに永久に韓国を帝国に併合することとなせり……東洋の平和はこれに依りて愈々その基礎を鞏固にすべきは朕の信じて疑わざる所なり、朕は特に朝鮮総督を置き之をして朕の命を承けて陸海軍を統率し諸般の政務を総括せしむ、百官有司よく朕の意を体して事に従い施設の緩急その宜しきを得以て衆庶をして永く治平の慶を頼らしむる事を期せよ」と述べている。
(2019年10月17日投稿)