2022年8月、国連障害者権利条約に関する日本の審査を障害者権利委員会が実施し、9月6日には「日本政府に対する総括所見」を発表した。その内容は、「障害児の分離教育の中止要請」と「精神科の強制入院の廃止」を勧告(初めて)するものであった。
「総括所見」は、課題が山積している事を表すように他国に比べ詳しいものになっている。条約の総ての条文にわたり、「懸念すべき事項」と「勧告」を盛り込んでいる。特に緊急性が高いとするものは、「脱施設(精神病院も含む)」と「インクルーシブ教育」で、委員は「子ども時代に分離されると大人になって地域社会で生活するのは難しくなる。インクルーシブ教育はインクルーシブ社会の礎である」として2つは繋がっているものだとしている。条約第24条(教育)に関する勧告では、目指すべきビジョンを「分離特別教育を終わらせる事を目的として、障害がある児童がインクルーシブ教育を受ける権利を持っている事を認識する事」と明示している。そのために、「すべての障害がある子どもが合理的配慮と個別支援を受けられるようにするためインクルーシブ教育に関する国家行動計画を採択する事」を要求している。また、「就学拒否禁止条項を作る事」「通常学校の教師へのインクルーシブ教育・人権モデルの研修」「分かりやすい教科書の作成」「手話言語教育や盲ろう教育」「高等教育への取り組み」などを要求している。さらに、2022年、文科省からの「四・二七通知」も撤回を勧告している。「四・二七通知」は、「週の半分以上の時間を特別支援学級で過ごす事」としているが、「分離を強化するもの」と批判している。
障害者権利委員会は、文科省が近年日本の特別支援学校や特別支援学級の大幅増加を、「多様な学びの場の充実」として積極的に評価してきた姿勢を、「学びの場を分離した上で対応」するのではなく、「一人一人の個別の教育ニーズを満たし、インクルーシブ教育を確保するための合理的配慮(バリアフリー)の保障」を要求している。
米国では、かつて白人と黒人の分離教育は「分離すれども平等」として一般に認められていたが、1954年の「ブラウン判決」で「分離は差別」とされ、キング牧師などを指導者とする公民権運動を経て、1970年代には「インクルーシブ教育」が進められるようになった。人を分ける事に慣れてきた日本人も、変わる事を目指さなければ世界で誰も相手にしてくれなくなるのではないだろうか。
(2023年6月16日投稿)