礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

蜷川新「国際連盟脱退事件」を読む

2021-10-04 00:02:02 | コラムと名言

◎蜷川新「国際連盟脱退事件」を読む

 当ブログでは、二〇一八年一月に、国際法学者・蜷川新(にながわ・あらた)の「私の歩んだ道」という文章を紹介したことがある。蜷川著『天皇』(光文社、一九五二)の巻末に置かれていた文章である。そこで蜷川は、かつて自分は、日本の国際連盟脱退に反対し、ドイツの必敗を論じ、三国同盟条約の欠陥を指摘したと述べていた。
 その蜷川に、『興亡五十年の内幕』(六興出版社、一九五三)という著書がある。近代日本の外交政策について、国際法の立場から批判的に論じた本である。
 この本の中で彼は、国際連盟脱退や日独伊三国同盟についても論じている。章でいうと、「国際連盟脱退事件」、「日独伊三国同盟の欠陥指摘」、「三国同盟の排斥」の三章である。本日からしばらく、これらを順に読んでゆきたいと思う。
 
国際連盟脱退事件

        〇
 国際連盟の成立は、日本以外の諸国が、勝手に取計つて、世界に生じたものではない。一九一九年のヴエルサイユ会議の際に、日本国は、五大国の一として、それに与かり、そして日本人も亦、若干の重要項目をそこに持出して、成立せしめたものである。例えばその第八条第三項の如き、及第二十五条の如きがそれである。第八条の第三項は、日本の軍部側が称えたものであつた。そして第二十五条は、米国側が、後から申出して出来たものであるけれども、このような国際条規の必要を唱えたのは、実に日本人の私であつた。この一カ条が、挿入されることに定つたときに、日本の軍部の委員が、私に向つて、「妙な規定が新に加入されることになりました」と、特に私に注意したのであつた。私は、「それは、私が初めから称道していたことである」と、その時に即座に答えたのであつた。この事実は、日本人は、少しも知つていない。
 一九一九年の前半に、国際連盟の成立が、判然と定まらなかつた時に、私は、友人長島隆二の名で(代議士という名を利用して)、「国際連盟の成立を急げ」という一論を、ル・タン紙に投書したが、それが日本全権側の意見と見られて、ル・タンに掲げられた。論旨も可である。文章も、名文であると、当時外人から評されたものであつた。
 国際連盟は、世界の平和確保を目的として、案出され、そして成立した。ウヰルソン一人の考で出来たものではなかつた。日本人は、米人の発案のように誤信していた、迂濶〈ウカツ〉の日本人であつた。日本は、五大国の一として、この条約の成立に参加したのである。
        〇
 国際連盟規約は、その第一条の末項に規定してある通りに、「二年の予告」をもつて、脱退し得るのである。連盟は独立した列国間の合意によつて、列国の権利々益を重んじて作られたものである。それであるから、列国としては、その加入が、不利となった場合には、「二年前の予告」を、条件として、脱退し得るように、制定されてあつたのである。
 日本は、条約上、脱退し得るのであつた。【以下、次回】

 以上は、前置き的な部分だが、いったん、ここで切る。
 文中で蜷川は、「国際連盟規約」に触れている。参考までに、関連する条項を引いておこう(原文は、濁点なしのカタカナ文)。今回、インターネット上にあった「国際連盟規約」を利用させていただいたが、サイトによっては、誤入力が多く引用に堪えないものがあるので、利用される方に注意を喚起しておきたい。

国際連盟規約(抄)

第一条【加入と脱退】 一 本規約附属書列記の署名国及留保なくして本規定に加盟する該附属書列記の爾余諸国を以て、国際連盟の原連盟国とす。右加盟は、本規約実施後二月以内に宣言書を連盟事務局に寄託して之を為すべし。右に関しては、一切の他の連盟国に通告すべきものとす。
二 附属書に列記せざる国、領地又は殖民地にして完全なる自治を有するものは、其の加入に付、連盟総会三分の二の同意を得るに於ては、総て連盟国となることを得。但し其の国際義務遵守の誠意あることに付有効なる保障を与へ、且其の陸海及空軍の兵力其の他の軍備に関し連盟の定むることあるべき準則を受諾することを要す。
三 連盟国は、二年の予告を以て連盟を脱退することを得。但し脱退の時に其の一切の国際上及本規約上の義務は履行せられたることを要す。

第八条【軍備縮小】 一 連盟国は、平和維持の為には其の軍備を国の安全及国際義務を共同動作を以てする強制に支障なき最低限度迄縮小するの必要あることを承認す。
二 連盟理事会は、各国政府の審議及決定に資する為、各国の地理的地位及諸般の事情を参酌して、軍備縮小に関する案を作成すべし。
三 該案は、少くとも十年毎に再審議に付せらるべく、且更正せらるべきものとす。
四 各国政府前記の案を採用したるときは、連盟理事会の同意あるに非ざれば、該案所定の軍備の限度を超ゆることを得ず。
五 連盟国は、民業に依る兵器弾薬及軍用機材の製造が重大なる非議を免れざるものなることを認む。仍て連盟理事会は、その製造に伴ふ弊害を防遏し得べき方法を具申すべし。尤も連盟国中其の安全に必要なる兵器弾薬及軍用機材を製造し得ざるものの需要に関しては、相当斟酌すべきものとす。
六 連盟国は、其の軍備の規模、陸海及空軍の企画並軍事上の目的に供用し得べき工業の状況に関し充分にして隔意なき報道を交換すべきことを約す。

第二五条【赤十字篤志機関】 連盟国は、全世界に亘り健康の増進、疾病の予防及び苦痛の軽減を目的とする公認の国民赤十字篤志機関の設立及協力を奨励促進することを約す。

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