礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

『英文法汎論』の「再版に臨みて」(1917年11月)を読む

2021-10-21 01:45:38 | コラムと名言

◎『英文法汎論』の「再版に臨みて」(1917年11月)を読む

 今月一五日の当ブログに、「細江逸記著『英文法汎論』(1917年5月初版)について」という記事を載せた。本日は、その続きである。
 ウィキペディア「細江逸記」の見ると、次のような説明がある(2021・10・20閲覧)。

細江逸記(ほそえ いっき、1884年9月28日-1947年3月11日)は、日本の英語学者。/三重県出身。東京外国語学校英語科卒。東京外国語学校講師、大阪高等商業学校教授、1931年大阪商科大学教授。1936年「ヂヨーヂエリオツトの作品に用いられたる英国中部地方言の研究」で京都帝国大学文学博士。

 数行しかない紹介文の中で、ひとつ気になるのは、「細江逸記」の読みが、「ほそえ いっき」となっていることである。典拠はあるのだろうか。
 細江逸記の著書『英文法汎論』の巻頭には、一九一七年(大正六)五月の初版以来、「Foreword」と題された英文序文が付されている。その署名は、「ITSUKI HOSOE」である。「ほそえ いっき」というウィキペディアの読みは、「ほそえ いつき」と訂正される必要がある、と考える。
 さて、本日は、細江逸記『英文法汎論』の第十三版(一九五〇年一二月)から、「Foreword」のあとに置かれている「再版に臨みて」(一九一七年一一月)という文章を紹介してみたい。

     再 版 に 臨 み て

 今年五月本書が初めて世に出でゝ以来学界一般から意外の好評を以て迎へられた事は著者たる予の最も欣幸とする所である。此度版を出す事になつて増補訂正を加へた事に就きて茲に一言して置きたいと思ふ。
 第一に言ふべきは29頁に亘る索引を附した事である。これは初版に於て当然すべきであつたのであるが或事情の為めに心ならずも省かれたののを今度入れたたまでの事である。第二に言ふべきは参考書類を列記して巻頭に附した事であるが、これは高等師範の岡倉〔由三郎〕教授の御注意に基いたのである。本書発行以来諸方から態々〈ワザワザ〉参考書に関する質問の手紙を予に寄せられた方々には一々御返事を差上げて置いたが、尚ほ今後に於て此種の事を知りたいと思はれる方は就いて見て下さつたら多少参考になるだらうと思ふ。尚ほ此表にある以外に米国のBloomfieldの“An Introduction to the Study of Language”は言語の学に志す人士の必独書、独逸のBrugmannの“Grundriss der vergleichenden Grammatik der indogermanischen Spracheen”は最高の研究者に最も有益なるものと信ずる。尚ほ此外に予はMax Müller, Sayce, Whitney, Lefèvre等諸家の書に負ふ所の極めて大なるを思ふのである。此等は今度本書を作す為めにとては参考しなかつたが、覚束なき予の頭を多少にても言語学的方面に働らく様にしたのは此等曽読〈ソウドク〉の書に外ならないからである。
 本文に入りて先づ言はねばならぬのは数ある誤植の訂正と多少の用語の変改とである。此点に関して予は帝大の市河〔三喜〕教授と再び高師の岡倉教授とに感謝措く能はざるものがある。市河教授は五月十九日に、岡倉教授は六月五日に、何れも精細なる正誤表と種々有益なる注意とを予に寄せて下さつたので、予は実に両教授の御蔭によりて此事を成し得たのである。それから予自身の仕事としては処々に新らしき例文を入れたり、又元の例を取り 換へたりした事であるが、それは初版の例が悪かつた故ではなく、爾来読書の中に更らに良き例を発見したからである。実際Earle氏の言つた如く Apt illustrations cannot always be caught when required, they must be waited forで今後と雖も版を改むる毎に此方面に於ける改善は最も多くの可能性を有して居るかに思はれる。文法上の理論学説議論に至りては何処にも変更の要を認めなかつた。啻〈タダ〉もつと附足したいと思つた事は随分多くあるが初版に於て本書の頁数を切詰めさした諸種の事情は索引の頁を増した再版に於ては更らに痛切なるものがあるから多くは断念して只所々に脚註として附加して置いたに過ぎぬ。さはいへ本書の面目は再版と共に著しく改善せられたものと信ず。素より浅学短才の予の業であるから尚ほ不備の点が多々ある事であらうが、それらに大方諸賢の垂教を仰ぎて大成を他日に期したいと思ふ。
 
 大正六年十一月      細 江 逸 記

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