礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

吉田龍蔵、昭和天皇に「片山病」の冊子を謹呈

2021-10-03 02:11:10 | コラムと名言

◎吉田龍蔵、昭和天皇に「片山病」の冊子を謹呈

 昨日の話の続きである。ネットで「片山病」を検索したところ、「日本住血吸虫病(片山病)の終息と広島県の取り組み―白馬・吹雪号の昭和天皇と片山病―」という論文がヒットした。『日本獣医師会雑誌』第五九巻第二号(二〇〇六年二月)に載ったもので、筆者は橋本秀夫さんである(広島大学名誉教授・広島県獣医師会会員)。サブタイトルで明らかな通り、昭和天皇と片山病の関りについて紹介している。
 以下に、この論文を抄出させていただく。

日本住血吸虫病(片山病)の終息と広島県の取り組み
   ―白馬・吹雪号の昭和天皇と片山病―
 橋本秀夫(広島大学名誉教授・広島県獣医師会会員)
 
1 日本住血吸虫病(片山病) 
 広島県では片山病、山梨県では水腫腸満とも呼ばれ、古くから汚染地域の住民に多大な被害をもたらしていた原因不明の風土病は、1904年5月26日、岡山医専の桂田富士郎教授が解剖した猫から発見した住血吸虫が原因と判明し、日本住血吸虫(Schistosoma japonicum)と命名された。それからわずか4日後に、京都大学の藤浪鑑〈フジナミ・アキラ〉教授は、病理解剖した片山病の患者から虫体を発見して本症の感染を確認した。
 さらに1913年、九州大学の宮入慶之助〈ミヤイリ・ケイノスケ〉教授と鈴木稔助手は流行地のひとつであった佐賀県で、日本住血吸虫の中間宿主である小さな巻き貝(約1cm)を発見した。この巻き貝は発見者にちなんで宮入貝と命名されたが、別名、片山貝とも呼ばれている。【この項、後略】

2 藤井好直医師の片山記   【略】

3 吉田龍蔵医師の活躍    
 片山の周辺では原因不明のまま相変わらず患者が発生していた。神辺町〈カンナベチョウ〉川南〈カワミナミ〉に隣接する中津原村〈ナカツハラムラ〉(現福山市御幸町〈ミユキチョウ〉中津原)で開業し、多数の片山病患者を診療していた吉田医師は、片山記が記されて60年近くにもなるのに、いまだに原因も治療法も解決されていないことを苦慮していた。自ら多数の患者を解剖して原因の究明をしていた吉田医師は、前述のように京大の藤浪教授に病理解剖を依頼して剖見した結果、ついに1904年、患者の門脈から日本住血吸虫が発見されたものである。

4 片山病に対する広島県の取り組みと動物実験 【略】

5 白馬・吹雪号の昭和天皇と片山病 
 昭和天皇は相模湾の海洋生物などのご研究でも有名なように、生物学者としても広く知られている。まだ摂政宮時代の1926年5月(大正15年)、広島県下をお巡りになった殿下は吉田医師を召されて、片山病研究の労をねぎらわれている。
 1930年11月(昭和5年)、神辺町を中心に陸軍特別大演習が行われた。このとき陛下は、福塩線(当時は両備鉄道)の道上駅と万能倉駅の中間地点で下車され、ここから愛馬・吹雪号で数百メートル離れた正戸山まで行き、この山頂から大演習の状況を視察された。片山に近い眼下に広がる一面の水田地帯は、片山病の流行地である。
 正戸山にはこのときの御統監之趾の記念碑があり、さらに現在は地元の福山市御幸町郷土史研究会によって、御召列車の臨時停留所跡、正戸山の中腹で吹雪号から下りて山頂へ向かわれたという、下馬所跡の石碑などが建立されている(写真1、2)。
 なお、このときにも陛下に召されてお言葉を賜った吉田医師は、「日本住血吸虫病(片山病)の梗概」と題する冊子を謹呈している。
 戦後、全国を巡幸された天皇は1947年12月(昭和22年)、3回目の備後路の旅で神辺小学校を訪れた。このとき、案内役の楠瀬〔常猪〕県知事に「その後、片山病はどうなっていますか」と尋ねられて関係者を感激させた。このことから福山市と神辺町では、市議会と町議会の中に御下問奉答特別対策委員会を設置し、県でも翌年「広島県地方病撲滅組合」を「御下問奉答片山病撲滅組合」と改め、一層の防除対策に取り組むこととなった。【後略】
 
 摂政宮時代の昭和天皇が、広島県下で吉田龍蔵(りょうぞう)医師を召し、「片山病研究の労をねぎらわれ」たこと、一九三〇年(昭和五)、陸軍大演習統監のために広島県神辺町を訪れた昭和天皇が、再び吉田医師を召したことなどは、この論文で初めて知った。吉田龍蔵が昭和天皇に謹呈したという冊子「日本住血吸虫病(片山病)の梗概」を、一読してみたいものである(国立国会図書館には架蔵されていない)。

*このブログの人気記事 2021・10・3(8位に珍しいものが入っています)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする