礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

映画『眼の壁』で印象に残ったシーン

2021-10-01 01:02:02 | コラムと名言

◎映画『眼の壁』で印象に残ったシーン

 先月一三日、一四日の両日、松本清張の小説『眼の壁』を取りあげた。その際、映画『眼の壁』(松竹、一九五八)についても、少し触れた。
 本日は、その話の続きで、映画『眼の壁』を観た感想などを綴ってみたい。
 この映画を、最初に観たのは、小学校低学年のころだった。家族といっしょに、まだ公開されて間もない同映画を劇場で観た。ストーリーなどは、全く理解できなかった。かろうじて記憶にあるのは、『眼の壁』というタイトル、そして、事件の黒幕の男が、黒い液体で満たされた浴槽に飛び込むラストシーン、このふたつである。
 さて、今回、DVDでこの映画を鑑賞した。昭和三十年代にタイムスリップしたような不思議な気分が味わえた。印象に残った場面が、いくつもあったが、そのうちの三つを、順に紹介してみよう。
 第一は、主人公の萩崎竜雄(佐田啓二)が、「事件」の手がかりを求めて、山杉商事という金融業者を訪ねる場面である。原作では、山杉商事の所在地は麻布だったが、映画では、千代田区万世橋にあるビルの二階である。当時、このビルが何と呼ばれていたかは不明だが、今日の「東芝万世橋ビル」の位置にあったビルだと思う。ビルの前は大通りで、都電がひんぱんに往復している。自動車の通行も多い。すぐ近くに、昌平橋交差点をまたぐ総武線の鉄橋がある。
 山杉商事の社長は不在で、萩崎は、社長秘書の上崎絵津子(鳳八千代さん)と面談した。ビルを出た萩崎は、通りの向い側にある喫茶店に入って、しばらく山杉商事を見張る。すると、上崎絵津子が出てきて、高級外車に乗り込んだ。あわてて喫茶店を出て、タクシーをつかまえる。「あの車を追ってくれ」と言う。この一連の場面が良かった。
 第二は、東京駅発の東海道線のボックス席で、友人の新聞記者・田村満吉(高野真二さん)と萩崎が、「事件」について情報交換する場面。田村満吉は、その日、結婚式を終えたばかりで、新婦の章子(朝丘雪路)と熱海に向かっている。そのボックス席に萩崎がやってきて、事件の話になる。萩崎は、名古屋まで赴き、そこで手がかりを捜すつもりだと言う。
 田村夫妻は、熱海駅で下車するはずのところ、事件のことが気になる満吉は、自分もこのまま名古屋に行くと言い出す。新婦が妙に物わかりのよい人で、新婚旅行は中断。章子は、岐阜にある親戚の家に向かうことになる。
 名古屋駅で下車する萩崎と田村。動きはじめた列車のデッキに立ち、「しっかりね!」と言って、笑顔で手を振る章子。そう、この当時の列車には、デッキというものが付いていたのである。
 ちなみに、原作では、田村満吉は独身。章子なる女性は、映画のみの「オリジナルキャラクター」である。
 第三は、萩崎が、事件関係者に関する情報を得ようと、長野県牧口村の村役場を訪ねる場面。古い民家のような門構えで、明治大正時代の村役場といった感じである。原作では、原作では、窓口で四十円の閲覧料を支払って、戸籍の閲覧を申し出ているが、映画には、この場面はない。
 窓口の後方に、「戸籍簿」という紙が貼られている戸棚があり、その中に、「出寄留綴」、「戸籍簿一」、「戸籍簿二」、「戸籍簿三」「戸籍簿四」などと記された分厚い綴りが納められている。「出寄留綴」は、「できりゅうつづり」と読むのであろう。初老の吏員(遠山文雄)が、「戸籍簿二」と書かれた綴りを引き出して、窓口に戻ってくる。
 なお、牧口村というのは架空の村名である。しかし、この村役場のシーンは、どこかホンモノの村役場を借りて撮影したのではないだろうか。

*このブログの人気記事 2021・10・1(8位の「法華経信仰」は久しぶり)

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