◎今より後の世をいかにせむ(山県有朋)
九月二七日15:09配信の読売新聞オンラインの記事「国葬での菅氏の弔辞、山県有朋に込めた思い…安倍氏にあこがれた菅氏・菅氏をうらやんだ安倍氏」(執筆・伊藤俊行編集委員)によれば、安倍晋三元首相の国葬で弔辞を読んだ菅義偉前首相は、その弔辞の最後に、山県有朋の歌を紹介したという。以下は、同記事からの引用。
◆山県有朋の歌に託した思い
弔辞の最後で、菅氏は安倍氏が読みかけのままだった本にあった、山県有朋の盟友・伊藤博文を偲ぶ歌を「私自身の思いをよく詠んだ一首」として紹介した。
<かたりあひて 尽くしゝ人は 先立ちぬ 今より後の世をいかにせむ>
山県は、同じ長州出身の伊藤より3歳年上で、伊藤の2代後の首相を務めた。
菅氏は、衆院議員になったのは安倍氏より1期遅かったが年は6歳上で、安倍氏の後に首相を務めた。
自分よりも若い友に先立たれた悲しみが、菅氏の弔辞にあふれていた。
九月二八日の朝日新聞朝刊の二七面には、「菅義偉前首相(友人代表)追悼の辞」が載っていた。それによれば、弔辞の最後の部分は、次のようになっていた。
衆院第1議員会館1212号室の、あなたの机には、読みかけの本が1冊ありました。岡義武著『山県有朋』です。
ここまで読んだ、という、最後のページは、端を折ってありました。そしてそのページには、マーカーペンで、線を引いたところがありました。
しるしをつけた箇所にあったのは、いみじくも、山県有朋が、長年の盟友、伊藤博文に先立たれ、故人を偲(しの)んで詠んだ歌でありました。
総理、いま、この歌くらい、私自身の思いをよく詠んだ一首はありません。
かたりあひて 尽(つく)しし人は 先立ちぬ 今より後の 世をいかにせむ
かたりあひて 尽しし人は 先立ちぬ 今より後の 世をいかにせむ
深い哀しみと、寂しさを思います。総理、本当に、ありがとうございました。
どうか安らかに、お休みください。
これによって、安倍元首相が、生前、最後に読んでいた本が、岡義武(おか・よしたけ)の『山県有朋――明治日本の象徴』であったことがわかる。この本が、一九五八年刊の岩波新書版だったのかそれとも、二〇一九年刊の岩波文庫版だったのかは、わからない。ちなみに、山県が伊藤を偲んだ歌は、岩波新書版では、一〇八ページに引かれている。
それにしても、安倍元首相が、生前、最後に読んでいた本が、明治の元勲・山県有朋について論じた本であり、その山県が盟友・伊藤博文の死を悼んだ歌のところに、元首相が「しるし」をつけていたという話に、少なからぬ関心を抱いた。