3.1997年「アメリカ新世紀プロジェクト」(PNAC)の設立とその提言
共和党に鞍替えしたネオコンの論客がこのシンクタンクを設立した。ブッシュ政権内の鷹派的な保守派がこぞってその設立に賛同した。チェイニー副大統領とラムズフェルド国防長官が賛同人となり、アミテージ国務副長官、パール国防政策委員会委員長、リビー副大統領補佐官、ボルトン国務次官という主要閣僚が発起人に加わっている。
この段階でチェイニー副大統領とラムズフェルド国防長官の二人をネオコンは抱え込むのに成功したのである。またこのブッシュ政権を切り回すこの二人は共和党の政策立案(特に外交政策・世界戦略)能力の弱さを、ネオコンを抱き込むことによって補強しようとしたのである。
PNACの提言のなかで最も重要なのは、「現在の諸脅威、米国の外交、国防政策の危機と機会」であろう。執筆者はロバート・ケーガンとウィリアム・クリストルを編集者に主要なネオコンの論客が顔を揃えて執筆している。
クリントン政権の外交・安全保障政策、特に対イラク政策を徹底的にこきおろし、「今日においても、将来においても、世界に抜きん出た軍事力を維持」し、「米国の利益にそって、国際の安全保障秩序をつくりあげる」とする。そのためにも、フセイン政権打倒が先決と主張し「先制攻撃戦略」を提唱する。
それを受けてブッシュ政権は2000年9月に「米国国防の再構築」を発表し、核戦力の再強化、軍事予算の増額、米軍再配置など9つの重点課題を挙げ、「先制攻撃戦略」に対応しての国防・軍事にかかわる全面的な再構築を提起した。「先制攻撃戦略」が正式にブッシュ政権の政策に取り入れられたのである。
4.2001年1月「核戦略と軍備管理の論理と必要」
ネオコンのシンクタンク「国家公共政策研究所」が非公開で出した政府への報告書である。これを下敷きに国防総省は、「核戦略見直し報告」を下院に2001年暮れに提出する。
① 「核兵器ならびに非核兵器による攻撃システムの統合」をおこなって、核兵 器の特別扱いを廃止する。
② 「使える核」を強調し、「核兵器使用の柔軟性」の名のもとに核兵器使用基 準の引き下げをおこなう。
という内容である。ネオコンの提唱により政府に取り入れられた「先制攻撃戦略」のなかに、核兵器の使用が組み込まれることになった。
これは「低出力核兵器」の開発をすすめ、核兵器使用を容易にすることを狙ったのである。冷戦時代の「均衡と抑止」、抑止力としての核という論理からの脱皮をはかり、先制的な核兵器使用を戦略構想の中に組み込んだ。この恐るべき事態についての認識に、日本では欠けていると言わざるをえない。私は「眠れる悪魔」になったアメリカと認識している。
かくて、ブッシュ政権は2001年末、アメリカはABM(大陸間弾道弾迎撃ミサイル制限条約)からの脱退を宣言し、小型核兵器開発を禁じた「ファース・スプラット条項」を2004年に廃止し、特殊貫通弾(バンカーバスター)への核弾頭装備の開発費を予算に計上した。現在、毎年小型核兵器開発予算を計上している。