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よたよたランナーの手記(7) 随筆 「回 春」  文科系

2013年06月22日 14時19分19秒 | 文芸作品
  回 春

メーターはおおむね時速三〇キロ、心拍数一四〇。が、脚も胸もまったく疲れを感じない。他の自転車などを抜くたびにベルを鳴らして速度を上げる。名古屋市北西端にある大きな緑地公園に乗り込んで、森の中の二・五キロ周回コースを回っているところだ。たしか六度目の今日は最後の五周目に入ったのだが、抜かれたことなど一度もない。ただそれはご自慢のロードレーサーの性能によるところ。なんせ乗り手の僕は七二才。三年前に二回の心臓カテーテル手術をやって、去年の晩夏に本格的な「現状復帰」を始めたばかりの身なのである。一昨年の二月には、こんなどん底も味わっている。日記を抜粋してみよう。

『突然のことだが、「ランナー断念」ということになった。二月初旬までは少しずつ運動量を伸ばし、時には一キロほど走ったりして、きわめて順調に来ていたが、突然こんなことが起こったのである。十六日水曜日夕刻、いつもの階段登りをやり始めて十往復ぐらいで、不整脈が突発。それもきちんと脈を取ってみると、最悪の慢性心房細動である。ここまで順調にやれて来て、十一日にも階段百十往復を何の異常もなくやったばかりだったから、全く寝耳に水の出来事。青天の霹靂、気分は暗澹。
 翌日、何の改善もないから掛り付け医に行く。「(カテーテル手術をした)大病院の救急病棟に予約を取ったから、即刻行ってください」とのこと。そこではちょっと診察してこんな宣告。「全身麻酔で、AEDをやります」。このAEDで、完全正常にな戻った。もの凄く嬉しかった。前日の「青天の霹靂」、「暗澹」の一日後のことだったから。なのに二五日金曜日、掛り付け医に行き、合意の上で決められたことがこれだったのである。
・年齢並みの心拍数に落とす。最高百二十まで。
・心房細動が起こったら、以前の血液溶融剤を常用の上、AEDか再手術か。
 さて、最高心拍数がこれなら、もう走れない。速度にもよるが百五十は行っていたからである。僕も七十歳。走るのを断念して、細く長く生きる道を選ぶしか無くなったと覚悟した。走るのをほぼやめていて体質がどんどん変化していると感じるが、それも仕方あるまい。ランナーとして年貢の納め時なのである。』

さて、そんな境地でも未練ったらしい足掻きは続けていた。ゆっくりの階段往復、ロードレーサー、散歩、その途中でちょっと走ってみる。すべて、身につけた心拍計と相談しながらのことだ。そして、心拍数を少しずつ上げてみる。初めはおっかなびっくりで、異常なしを確認しては次第に上げていく。気づいてみたらこんな生活が一年半。一四〇ほどなら何ともないと分かってきた。すべてかかりつけ医に報告しての行動である。そして、去年の九月からはとうとう、昔通りに市立のスポーツジムに通い出した。高齢者は一回六十円で済むが、駐車場代が三百円だから自転車で行く。そして今では、三十分を平均時速九キロで走れるようになった。心拍は百五十以内を目標としているが、気づいてみると時に昔通り百六十になってしまう。それでも何ともないのだ。おかげで平常数も六十と下がり、血流と酸素吸収力が関係するすべてが順調。ギターのハードな練習。ワインにもまた強くなった。ブログで五時間ほども目を酷使しても疲れを感じないし、その他いろいろ文字通り回春である。先日は、十五年前に大奮発したレーサーの専用靴を履きつぶしてしまった。その靴とパンツを買い直したのだが、こんな幸せな買い物はちょっと覚えがない。今度の靴は履き潰せないだろうが、さていつまで履けるだろうか。
 人間、どんなになってもけっこう鍛えることができるものだ。病気に対して、医者の言うままに守るだけではなく、攻める姿勢も時には必要ということだろう。
コメント
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