「考えてみると、エリザベスの前半生ほど数奇という言葉がそのままあたる人間もあるまい。彼女はヘンリー八世の娘として生れた。このヘンリー八世というのがまた、英傑と悪魔とを完全に同居させたような人物だったが、エリザベス王女は生まれて三年、まだ満三歳にもならないときに、その実母(アン・ブリン。ヘンリー八世の二番目の妻)は父の命によって断頭台で首をはねられている。またこえて九歳の春には、彼女が深く慣れ親しんでいた継母、すなわち父ヘンリー八世の五人目の妃が、これまた実母と同じ断頭台におくられた。少女時代にはいっては、いくどか宮廷内の陰謀事件に関連を疑われて、とかく日蔭の身をかこっているが、ことに1554年に起こったある未遂の反乱陰謀事件では、21歳の彼女までロンドン塔に送られ、その後やっと濡れ衣ははれるが、文字通り断頭台の一歩手前まで行った。もちろん当時王位が転げこんでくるなど思いもよらなかった。したがって、1558年25歳ではからずも王位についたなどというのも、文字通り運命の不思議というよりほかないが、ということは、この歳までの彼女は、ほとんど庶民の娘も知らぬほどの苦労と経験をなめたにちがいない。人間の運命の測り難いこと、人の心の頼りにならぬことなど、おそらくいやという身にしみて味わったにちがいない。そこはおどろくべき聡明な彼女である。彼女45年の治政成功の秘密の底には、明らかのこの娘時代の体験が見事に生かされていたと考えるしかない。」
(中野好夫著『シェイクスピアの面白さ』新潮選書、191頁より引用しています。)
5月19日(月)の夜の部、三回目の観劇でした。
レディ・ベス:花總まり
ロビン・ブレイク:山崎育三郎
メアリー・チューダー:吉沢梨絵
フェリペ:平方元基
ロジャー・アスカム:石丸幹二
当日朝窓口でチケットを購入してから出かけました。
一階の補助席。観やすくていい席でした。
贅沢でしたが、自分にご褒美を用意しておかないと乗り切れそうにないことでした。
大きな局面の後の観劇で、昼間のことを色々と考えながら観ていたら歌詞がとても身近に感じられ、共感できるものがたくさんありました。
プロローグでアスカム先生が歌います。
「星々が告げるベスの運命」
ヘンリー八世のハンプトンコート・パレスの天文時計がモチーフの傾斜舞台。
最初に観たときにはわからなかったですが、数奇な運命をたどるベスの前半生を暗示していたのですね。
石丸さんがこんな低音で歌われるのは始めてだそうですが、堪能させていただきました。
舞台はこのあと物語の中で唯一、何のしがらみもない、しばられるもののない架空の人物、ロビンと三人の仲間たちが登場します。
史実にベスとロビンとの出会いを絡ませて、物語は進んで行きます。
ロビンと仲間たちがが歌います。
「人生は一度きり、自由に生きろ」(人生は一度きり)と。
ロビンが歌います。
「家も金も義務もない
自由で 気まま
この美しい世界のすべて
俺のものさ
心のままに書く詩人で
道化が得意な役者で
つらい時代忘れさせる 歌手さ
旅に生きる流れ者
富と名声 財産に名誉
何もいらない
歌と物語ならあるさ
俺は自由だ」
(俺は流れ者)
ロビンはリュートを弾いたり、酒樽の上に乗ったり、大道芸人のようにジャグリングを披露したり、舞台を駆けまわって自由に呼吸している雰囲気は本当につらいことを忘れさせてくれました。いろんなものにがんじがらめになっている人たちの中で、彼と仲間たちの存在はやすらぎを感じました。
山崎さんロビン、やんちゃな雰囲気が彼本来の持っているものとうまく重ね合わさり自然体で流れ者の雰囲気がよく出ていたと思います。
一度きりの人生、ロビンのように自由人でいることは現実にはあり得ませんが、心はしがらみに縛られることなく自由でありたい。一度きりの人生、自分を大切に生き直していきたいと心から思いました。
傲慢になってはいけないですね。人をだましたりしてもいけません。
自分の感性を信じて一生懸命に生きていけばいい、そんな思いをベスの歌がさらに後押ししてくれました。
一幕の終わり、メアリーによってロンドン塔に送られることになったベスが歌います。
「私の心が読めると言うの?
あなたとは違う 読めはしない
濡れ衣 着せられても 微笑み返す
潰されはしない 何をされても
責められ 罰せられても 魂だけは自由
心はわたしのもの
窓なんてない、のぞけはしない
秘めた想いを あなたは知り得ない
命令される そのたびに
信念だけは 護ってきた
あなたと同じ考え方など無理よ
自分自身を裏切れないわ
閉じ込め 脅かされても
魂だけは自由」
(秘めた想い)
二幕終盤、メアリーと和解したベスは、アスカム先生、養育係のキャット・アシュリーと穏やかなひとときを過ごします。このまま穏やかな時が続いて、迎えにきたロビンと一緒にどこかに行って普通に暮らせたらどんなにいいだろうに、ベスは女王として生きる道を選びます。
ロビンに、一緒に行くことはできないと告げたベスは、ずっと髪につけていたイモーテル(永遠に枯れない花)を託して戴冠式に臨みます。
イモーテルを胸に王冠をいただいたベスにひざまずくロビンは、これからどこへ流れていくのでしょう。ふっと気がついたら風のようにどこかの空にいってしまうような、そんな切ないラストでした。
フェリペ皇子ふたりのチケットホルダーをもらい、終演後はお見送りイベントもありました。平方さんフェリペとロビンの仲間たち三人組に見送られました。山崎さんロビンのあいさつもあったし、幸せなひとときでした。
『レディ・ベス』、先日名古屋で半年間の公演の千秋楽を迎えました。
落ち着いていれば、オンドリャーをまた観たかったですがかなわず残念でした。
個人的体験と重ねあわせて、忘れられない舞台になりそうです。
真摯に一生懸命生きようとすると苦しかったりしますが、正直ベースで生きていくのはきびしいのかなと思ったり、迷いの日々ですが希望を捨てずに、自分を見失うことなく歩いていければいいなと思います。この舞台から、そのエネルギーをもらいました。
書き足りない感もありますがひとまずここまでです。
5月19日のキャストボード。
ライトでかなり見づらいですね。
同じですがこちらも。
石丸幹二さんアスカム先生
山口祐一郎さんアスカム先生
(中野好夫著『シェイクスピアの面白さ』新潮選書、191頁より引用しています。)
5月19日(月)の夜の部、三回目の観劇でした。
レディ・ベス:花總まり
ロビン・ブレイク:山崎育三郎
メアリー・チューダー:吉沢梨絵
フェリペ:平方元基
ロジャー・アスカム:石丸幹二
当日朝窓口でチケットを購入してから出かけました。
一階の補助席。観やすくていい席でした。
贅沢でしたが、自分にご褒美を用意しておかないと乗り切れそうにないことでした。
大きな局面の後の観劇で、昼間のことを色々と考えながら観ていたら歌詞がとても身近に感じられ、共感できるものがたくさんありました。
プロローグでアスカム先生が歌います。
「星々が告げるベスの運命」
ヘンリー八世のハンプトンコート・パレスの天文時計がモチーフの傾斜舞台。
最初に観たときにはわからなかったですが、数奇な運命をたどるベスの前半生を暗示していたのですね。
石丸さんがこんな低音で歌われるのは始めてだそうですが、堪能させていただきました。
舞台はこのあと物語の中で唯一、何のしがらみもない、しばられるもののない架空の人物、ロビンと三人の仲間たちが登場します。
史実にベスとロビンとの出会いを絡ませて、物語は進んで行きます。
ロビンと仲間たちがが歌います。
「人生は一度きり、自由に生きろ」(人生は一度きり)と。
ロビンが歌います。
「家も金も義務もない
自由で 気まま
この美しい世界のすべて
俺のものさ
心のままに書く詩人で
道化が得意な役者で
つらい時代忘れさせる 歌手さ
旅に生きる流れ者
富と名声 財産に名誉
何もいらない
歌と物語ならあるさ
俺は自由だ」
(俺は流れ者)
ロビンはリュートを弾いたり、酒樽の上に乗ったり、大道芸人のようにジャグリングを披露したり、舞台を駆けまわって自由に呼吸している雰囲気は本当につらいことを忘れさせてくれました。いろんなものにがんじがらめになっている人たちの中で、彼と仲間たちの存在はやすらぎを感じました。
山崎さんロビン、やんちゃな雰囲気が彼本来の持っているものとうまく重ね合わさり自然体で流れ者の雰囲気がよく出ていたと思います。
一度きりの人生、ロビンのように自由人でいることは現実にはあり得ませんが、心はしがらみに縛られることなく自由でありたい。一度きりの人生、自分を大切に生き直していきたいと心から思いました。
傲慢になってはいけないですね。人をだましたりしてもいけません。
自分の感性を信じて一生懸命に生きていけばいい、そんな思いをベスの歌がさらに後押ししてくれました。
一幕の終わり、メアリーによってロンドン塔に送られることになったベスが歌います。
「私の心が読めると言うの?
あなたとは違う 読めはしない
濡れ衣 着せられても 微笑み返す
潰されはしない 何をされても
責められ 罰せられても 魂だけは自由
心はわたしのもの
窓なんてない、のぞけはしない
秘めた想いを あなたは知り得ない
命令される そのたびに
信念だけは 護ってきた
あなたと同じ考え方など無理よ
自分自身を裏切れないわ
閉じ込め 脅かされても
魂だけは自由」
(秘めた想い)
二幕終盤、メアリーと和解したベスは、アスカム先生、養育係のキャット・アシュリーと穏やかなひとときを過ごします。このまま穏やかな時が続いて、迎えにきたロビンと一緒にどこかに行って普通に暮らせたらどんなにいいだろうに、ベスは女王として生きる道を選びます。
ロビンに、一緒に行くことはできないと告げたベスは、ずっと髪につけていたイモーテル(永遠に枯れない花)を託して戴冠式に臨みます。
イモーテルを胸に王冠をいただいたベスにひざまずくロビンは、これからどこへ流れていくのでしょう。ふっと気がついたら風のようにどこかの空にいってしまうような、そんな切ないラストでした。
フェリペ皇子ふたりのチケットホルダーをもらい、終演後はお見送りイベントもありました。平方さんフェリペとロビンの仲間たち三人組に見送られました。山崎さんロビンのあいさつもあったし、幸せなひとときでした。
『レディ・ベス』、先日名古屋で半年間の公演の千秋楽を迎えました。
落ち着いていれば、オンドリャーをまた観たかったですがかなわず残念でした。
個人的体験と重ねあわせて、忘れられない舞台になりそうです。
真摯に一生懸命生きようとすると苦しかったりしますが、正直ベースで生きていくのはきびしいのかなと思ったり、迷いの日々ですが希望を捨てずに、自分を見失うことなく歩いていければいいなと思います。この舞台から、そのエネルギーをもらいました。
書き足りない感もありますがひとまずここまでです。
5月19日のキャストボード。
ライトでかなり見づらいですね。
同じですがこちらも。
石丸幹二さんアスカム先生
山口祐一郎さんアスカム先生