アベノミクスの「第3の矢」は旧体制を維持しようとする勢力を貫けないで,立ち往生の状態だ。今月5日の安倍首相の成長戦略に関する講演直後から海外勢の売りで株式市場は異次元緩和の前に戻ってしまった。1月14日のブログでアベノミクスの成功する細い道は「個人消費が出て来る賃上げ」「企業が投資をする」「輸出が伸びる」という条件を述べた。安倍政権は急遽、秋に設備投資減税を柱とする追加策を打ち出したり、賃上げへの合意作りに政労使委員会の設置を提案している。
成長戦略は(1)「日本産業再興プラン」(2)「戦略市場創造プラン」(3)「国際展開戦略」の3つの柱からなる。(1)は企業再編や設備投資を促す法制度整備や国家戦略特区の推進、子育て支援の拡充などを明記。(2)では医療関連産業の活性化や電力システム改革、農業の競争力強化策などを掲げた。(3)ではTPP(環太平洋経済連携協定)など経済連携交渉の推進、インフラ輸出、クールジャパンの推進などを打ち出した。
内容は多肢にわたるが漠然としていてこれまでの政権が考えていた内容と大きな違いはない。安倍首相が異次元の金融緩和に続き、「異次元の成長戦略を示す」との考えを繰り返し表明したが、何故これが異次元の成長戦略と疑問が出るほどだ。
法人税減税は財務相の壁が厚く見送られ、最も重要な規制緩和は各省庁の既得権を守る壁に立ち往生した。安倍首相は「規制改革は成長戦略の一丁目一番地」と言い続けてきたが象徴的な一般用医薬品のネット販売解禁は小幅な緩和でお茶を濁し、企業による農地所有の自由化や農業生産法人への出資規制の緩和、保険診療と保険外診療を組み合わせた混合診療の全面解禁なども見送りになった。
原発事故の後、日本中が期待し、民間がこぞって取り組んでいる太陽光発電システムも送電を独占している電力会社が買電に応じなかったり、風力発電システムはアセスメント規制で1年以上も認可がとれないという信じられない混乱が今起きている。ダンゴムシの生態までアセスメントが必要など噴飯物だ。
官僚達は権益保持を優先しながら落としどころを探って、成長戦略など全く意に介しない。民主党はそうした官僚を排除したが、安倍政権は官僚の霞が関的手法に翻弄されている。