評判のアニメ「風立ちぬ」を見た。我々の年代だと堀辰雄の小説「風立ちぬ」のアニメ化と思ってしまう。映画が始まると、かの有名な零戦設計者堀越二郎の自伝なのでちょっとびっくりするが、やがて菜穂子の登場で、堀辰雄の「風立ちぬ、いざ生きめやも」の純愛編に引き込まれて行く。現在のがん以上に当時は不治の病であった肺結核を患う菜穂子へのひたむきな愛、舞台は小説と同じく富士見高原療養所、残された時間が惜しく、菜穂子が名古屋の堀越の処に病を押して駆けつけ祝言を挙げ、短い結婚生活、いざ生きめやもが思いおこせる。堀辰雄の「風立ちぬ」の世界に堀越二郎の自伝が見事に重なる。
ちなみに小説「風立ちぬ」のヒロインは節子だが、堀のもう一つの富士見高原療養所を舞台にした小説は「菜穂子」である。
もう一つの見所は、航空機設計という最先端技術の開発場面で、同盟国ドイツで「日本人はすぐ真似をするから重要な技術は見せられない」とばかにされ、堀越は発奮する。当時の日本は技術水準が低く、先進国に追いつくためには手っ取り早く真似をすることだった。戦後でも、60年代まではこの傾向が続いていて、堀越のような技術者の献身的な努力で何とか先進国に追いついたこともこのアニメの言いたいところだ。堀越の言「デザインは美しさを追求しなければならない。技術は後からついてくる」は現在の日本のものつくりへの提言とも取れる。
おまけは、関東大震災の恐怖の場面があるが昭和の懐かしい風景と高原の美しい風景だが、後者はやはり小説「風立ちぬ」の舞台軽井澤と富士見高原の自然だ。