高校の後輩である多和田さんが母校に来るというので文学には日頃縁のない私だが、芥川受賞作品「犬婿入り」の特異性と早稲田を卒業してすぐドイツに渡ったという思い切りの良さに興味を引かれ、参加した。彼女と同期(高卒30期)の方々や親友らしき人もいて、率直な質問が多く、文学作品の書き方、発想の原点など自分とは別世界のことが出てきて、知的刺激で暑さもすっ飛んだ。
知らない世界とは言え、芥川賞と直木賞ぐらいは知っていたが、多和田さんがもらった文学賞は群像新人賞、泉鏡花文学賞、伊藤整文学賞、紫式部文学賞、野間文芸賞、読売文学賞、ドゥマゴ文学賞と日本にこれほど多くの文学賞があるとは先ず驚いた。小説を書くに当たって、終わりまでのストーリーを完成させてから書き始めるのではなく、書きながら発想が出てきて展開し、終わるという手法を取っている。したがって彼女は平行して2つの小説を書くことはできないとのこと。
多和田氏はドイツに渡って、しばらくしてドイツ語で小説をかくようになり、ここでも文学賞をもらっている。印象に残ったのはドイツ語で書いた自分の小説を日本語に訳すことの難しさを強調していた。このあたりから言語の話題が出てきてドイツ在住の長い同期生から「自分はドイツ語をしゃべっているとドイツ人のような感覚になる」と言葉の不思議さに触れた。私は英語ぐらいの経験だが、飛行機に搭乗し、キャビンアテンダントの日本語のアナウンスを聞き、すぐその後英語で同じ人が同じアナウンスをするがいつも違和感を感じる。日本語の方がやさしさとか暖かさを感じるが、同じ人の英語アナウンスではぶっきらぼうとか事務的といった感じになる。由紀さおりがロンドンでブレイクしたときの言は、日本語での歌唱が意味不明でも癒やし効果があり、英国人に受けたとの事例も言葉の力なのかもしれない。多和田氏は言語学にも研究を広げてる。
私の知らなかったドイツの一面、文学の朗読会が日常的に行われ、有名作家でも自分の作品の朗読会をしばしば行うということだった。次回は多和田氏の朗読を聞いてみたい。