カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

『妹』と【別れ】より・知らなかった姉さんへ

2015-11-17 20:44:51 | 物書きさん、お題です
 五つ離れた姉は中学卒業と共に家を出て寮に入り、長期休暇以外は実家に帰る事も無いままに就職も遠い街で行った。だから小さい頃の私は遠く姉に対して何の興味も抱かず、仲良くなろうとも思わなかった。
 ある日、そんな姉が事故で亡くなってしまい、一人で暮らしていた部屋の荷物を母と一緒に片付けていると、私が好きな作家や歌手の本やCD、それに作りかけの編み物や人形が沢山出て来た。
 ひょっとしたら、あの人は私が思うより遠い人では無かったのかも知れないが、私がそれに気付くのは遅すぎたらしい。
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『二度目の初恋』と【冷める】より・昔の名前で出ています

2015-11-16 19:20:14 | 物書きさん、お題です
 北風の中、久し振りに君を見かけた。あの頃よりも少し大人になった姿に、今ならもう一度やり直せるんじゃないかと思っている。

 などというメールが彼氏でもない元同級生から届いたので旦那に相談したら、『妻はマウイ島で家族や4匹の猫に囲まれて幸せに暮らしていますが何か』とメールを返送していた。
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『演技』と【高い】より・いけないわけ

2015-11-13 22:11:12 | 物書きさん、お題です
 アイツが自分は高いところが怖いと繰り返していたのは、そう言った方が可愛らしいと思われるからだろうと思っていた。だからあの時も悪気はなく、少しだけふざけて崖の端で肩を押した。
 まさか狂乱状態に陥ったアイツが逆に俺を崖下に突き落とし、そのまま家に帰るとは思いもしなかった。俺がこんなうらぶれた場所で成仏出来ないで幽霊をやっているのはそれが理由だ。
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『記憶』と【下手くそ】指の記憶

2015-11-12 21:36:48 | 物書きさん、お題です
 子供の頃、物を作るのは好きだったのに完成した作品はいつも出来が悪かったので、自分は下手の横好きな不器用者だと思っていた。やがて大人になり、物作りでお金を頂く身となって思うのは、子供の頃の自分が拙い技術と続かない集中力で勝てるはずのない無謀な戦いを挑んでいた事、そして、度重なる敗北を重ねつつ、それでも執拗に物作りを続けてきた結果が現在の作品を支えている事だ。
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『ケータイ』と【のんびり】より・地図のない旅

2015-11-11 22:42:23 | 物書きさん、お題です
 現在、行方不明となっている筈の友人から、気儘な一人旅中だと写メが次々と送られてくる。有名な観光地からどうと言うことのない普通の住宅街、町の喧噪や道端に咲く花まで被写体は様々だ。ただ、次々と時間を空けずに届く写真の位置情報は毎回数百メートル以上の距離の開きがあり、それについての明確な理由は考えないことにしている。
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『季節外れ』と【不思議 】より・迷い咲きの花

2015-11-10 19:59:57 | 物書きさん、お題です
 秋に咲く桜を見て珍しいと喜んでいたら、一緒に歩いていた先輩が渋い顔をした。
 何でも元々桜花が季節を違えるのは、速過ぎる落葉によって十分な休眠準備が取れないまま小春日和の陽気に花芽が反応してしまうからで、そうやって咲く花は、本来次の春に花を付け実を結ぶ筈だった機会を奪われたのだと。

 でも先輩、確かソメイヨシノは自花不稔性では。


※作者註:自花不稔性というのは、同一品種間では受精しない現象を言います。
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『二度目の初恋』と【結末】より・青い檸檬の味がする

2015-11-09 23:04:25 | 物書きさん、お題です
 自分では良く覚えていないが、何と俺は妻に二度告白したことがあるらしい。
 妻の証言によると小さい頃、妻が悪ガキに苛められているのを俺が助けて怪我をした時、妻があまりに泣くので「俺の嫁になったら許す」と言ったのだそうだ。その後、親の仕事の都合で転校した俺は、生まれ故郷から遙かに離れた地で入学した大学で出会った妻に一目惚れして交際を始め、そのまま現在に至る。

 ちなみに、告白の証拠物件は子供の字で書かれた結婚誓約書だった。
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『親子』と【偽り】より・ママの思い出

2015-11-06 19:54:35 | 物書きさん、お題です
 小さい頃、僕には母さんの他にママが居た。うちの離れに住んでいて、気がついたらいつの間にか居なくなっていた、母さんよりずっと若くて奇麗で優しかったママを僕は大好きだったし、具体的には覚えていないが凄く可愛がって貰っていた記憶が薄らと残っている。
 大人になった今になって考えてみると、ママは多分親戚のお姉さんか、或いはおばさんか誰かで、きっと何らかの事情があって一時的にうちの敷地に住んでいたのだろう。
 でも、両親、特に母さんにママの話をすると、いつだって血相を変えて『そんな人は知らない』と言い張るのだ。
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『迷子』と【振り返る】より・過去の風景

2015-11-05 20:41:02 | 物書きさん、お題です
 奇妙に古めかしい町並みで迷子になった私の手を引いて橋の前まで送ってくれた奇麗なお姉さんは、もう振り返っちゃ駄目よと言った。
 でも、私はもう一度お姉さんの姿を見たくて橋を渡りきる直前に振り向いてしまった。するとそこは火の海で、逃げ惑う人と一緒にお姉さんも炎に焼かれていた。ずっと後で知ったが、昔この町は空襲で殆どが焼けてしまい、沢山の人が亡くなったのだそうだ。

 きっと、あの時のお姉さんは、私にあの景色と自分が焼けていく姿を見せたくなかったのだと思うと哀しくなった。
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「あたたかさ」より・撥ねる金魚の暖かさ

2015-11-04 20:53:13 | 突発お題
 昔、学習机の隣の棚に置いてあった金魚が不意に水の中で撥ねる音を聞くだけで、自分は一人だけで此処に居る訳では無いと思うことが出来たから、側に誰かが居て、更に自分が掛けた言葉を返してくれるなら、そりゃ暖かいに違いないと思う。
 あれはきっと、自分以外の命の息吹を感じた時の暖かさなのだ。
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