カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

骨董品に関する物語・三つの鋏

2019-06-08 09:28:41 | 突発お題

 鋏は常に切れるようにしておきなさいと母は言った。この世界には断ち切らねばならないものが多すぎて、鈍った刃では切るべきものを切れないまま周囲を傷付けてしまうだけだと。やがて歳を重ねるうちに私もそれは自分だけでなく私の大事なものを守るために必要なことだと気付いた。

コメント

骨董品に関する物語・フランスのペーパーナイフとペン軸のセット

2019-06-08 09:27:16 | 突発お題

 あの日、お前に使いこなせるだろうかと言いながら父は僕に骨董のペーパーナイフとペン軸をくれた。結局僕はそのセットを仕舞い込んで殆ど使わず生涯を終えることになったのだが、形見として受け取った僕の息子はこのペーパーナイフやペンとどういう付き合い方をするのだろうか。
コメント

骨董品に関する物語・陶器製のクロッカスポット

2019-06-08 09:25:17 | 突発お題

 冬の季節に備えるのと言って母は毎年穴の開いた奇妙な植木鉢に球根を植え付ける。植えるのは決まって春告花と呼ばれるクロッカスで、厳しい冬に挫けてやがて訪れる筈の春を忘れてしまいそうになった時、毎年のように変わらず満開に咲き開く色鮮やかな花の姿を思い描くのだと言う。

コメント

骨董品に関する物語・日時計の付いた方位磁針

2019-06-08 09:23:57 | 突発お題

 曽祖父の形見の日時計付方位磁針は口数が多いらしく、水鳥の姿が意匠に組み込まれた日時計の計測部分を立てると日替わりで諺を呟く。普段は無害なのだが、人間関係で落ち込んでいる時に「三分の一までは仲裁者が殴られる」などと呟かれた時は叩き壊す衝動を抑えるのが大変だった。
コメント