本来なら目の前を通り過ぎて行くだけだった世界の欠片を、彼女は夢中で拾い集めては標本にした。それは美しいものと醜いもの、難解なものと平易なもの、善なるものと邪なるものが並び立つ不思議な世界だったが、それを正しく読み解ける人間はこの地上に彼女以外は存在しなかった。
本来なら目の前を通り過ぎて行くだけだった世界の欠片を、彼女は夢中で拾い集めては標本にした。それは美しいものと醜いもの、難解なものと平易なもの、善なるものと邪なるものが並び立つ不思議な世界だったが、それを正しく読み解ける人間はこの地上に彼女以外は存在しなかった。
たかあきは雪国の地方都市に辿り着きました。名所は古い水族館、名物は果物だそうです。
隔絶された共同体というのは怖いもので、傍目からは寂れた観光地でしかないこの土地では余所者が触れてはいけない幾つもの禁忌が存在する。ちなみに触れてしまった余所者は土地の人間によって密かに水族館や果樹園に連行され、冬の雪解けが過ぎても行方不明のままだったりするから余計に怖い。
隔絶された共同体というのは怖いもので、傍目からは寂れた観光地でしかないこの土地では余所者が触れてはいけない幾つもの禁忌が存在する。ちなみに触れてしまった余所者は土地の人間によって密かに水族館や果樹園に連行され、冬の雪解けが過ぎても行方不明のままだったりするから余計に怖い。
たかあきは雨月の地方都市に辿り着きました。名所はツインタワー、名物は魚料理だそうです。
街の何処からでも見えるツインタワーのレストランで魚料理を頂きながら友人が言うには、アフロディーテと息子エロスが怪物に襲われ魚に変身して逃げる際、離れ離れにならないようお互いの尾にリボンを結んだのだそうだ。だから魚座は夢想と現実を併せ持つのだと言い張る友人は地味で頑固な山羊座だ。
街の何処からでも見えるツインタワーのレストランで魚料理を頂きながら友人が言うには、アフロディーテと息子エロスが怪物に襲われ魚に変身して逃げる際、離れ離れにならないようお互いの尾にリボンを結んだのだそうだ。だから魚座は夢想と現実を併せ持つのだと言い張る友人は地味で頑固な山羊座だ。
夜更け過ぎ、人里離れた建物の壁に映し出され蠢き回る巨大な南瓜や昆虫、そして箒で駆け抜ける魔女と踊り狂う化け物の群れに混じって燥ぐ宿泊客の影。それは既に廃墟と化したホテルの残骸に残った記憶が再生するプロジェクションマッピング、幽霊となった亡者たちの為だけの夜宴なのだ。
たかあきは春の学生街に辿り着きました。名所は城址公園、名物は海鮮鍋だそうです。
今はどうという事のない地方都市でしかない城下町は、ずっと昔に海の向こうの国から戦争を仕掛けられた時、まさに水際で船団の上陸を許さず国を守り切った際の戦場なのだそうだ。もっとも街で暮らす学生たちは過去の戦など知らぬまま、平和な海を見下ろしつつ季節ごとの海鮮鍋を賑やかに楽しんでいる。
今はどうという事のない地方都市でしかない城下町は、ずっと昔に海の向こうの国から戦争を仕掛けられた時、まさに水際で船団の上陸を許さず国を守り切った際の戦場なのだそうだ。もっとも街で暮らす学生たちは過去の戦など知らぬまま、平和な海を見下ろしつつ季節ごとの海鮮鍋を賑やかに楽しんでいる。
誕生日に買って貰ったぬいぐるみを抱えたまま山道で迷っていたら、何だか狐みたいな獣が出てきて町まで案内してやるが十年経ったら迎えに行くと言われた。望むところだと十年後、綺麗な花嫁衣裳を用意して待っていたら約束通りに現れた狐が嬉しそうにぬいぐるみを連れて帰って行った。
たかあきは雨月の観光地に辿り着きました。名所は特に無し、名物は饅頭だそうです。
古の有名歌人が歌に詠んだという名月を観賞しようとやって来た日、その街は重く垂れこめた灰色の雲から降り注ぐ雨に冷たく濡れそぼっていた。当てが外れた憤りから見えない月に向かって吠えまくる友人を放置して元々の目的だった店に到着した俺は、その店でしか買えない月餅を思い切り買い込んだ。
古の有名歌人が歌に詠んだという名月を観賞しようとやって来た日、その街は重く垂れこめた灰色の雲から降り注ぐ雨に冷たく濡れそぼっていた。当てが外れた憤りから見えない月に向かって吠えまくる友人を放置して元々の目的だった店に到着した俺は、その店でしか買えない月餅を思い切り買い込んだ。
たかあきは南国の地方都市に辿り着きました。名所は古城、名物は飴菓子だそうです。
秋の終わりに訪れた街はちょうど祭りの最中で、道行く人は吸血鬼だったりミイラ男だったりする上に遠慮なしにお菓子を要求してくる。どうせお祭りだしと手製の飴玉を渡してから歩み去った背後が何故か阿鼻叫喚の巷と化している様子だが、ひょっとしてハーブ(断じて合法)の配合を間違えたのだろうか。
秋の終わりに訪れた街はちょうど祭りの最中で、道行く人は吸血鬼だったりミイラ男だったりする上に遠慮なしにお菓子を要求してくる。どうせお祭りだしと手製の飴玉を渡してから歩み去った背後が何故か阿鼻叫喚の巷と化している様子だが、ひょっとしてハーブ(断じて合法)の配合を間違えたのだろうか。
たかあきは春の辺境に辿り着きました。名所は石碑、名物は貝料理だそうです。
彼女と一緒に訪れた田舎町は砂浜が綺麗な漁師町で、秋の季節になると漁が解禁されるという貝料理が名物となっている。季節外れで残念だったねと僕が言うと街外れにあった何かの石碑から視線を外した彼女は自分も生まれは海辺の人間だから貝料理は好きじゃないのと答えてきたが、食べ飽きたという意味だろうか。
彼女と一緒に訪れた田舎町は砂浜が綺麗な漁師町で、秋の季節になると漁が解禁されるという貝料理が名物となっている。季節外れで残念だったねと僕が言うと街外れにあった何かの石碑から視線を外した彼女は自分も生まれは海辺の人間だから貝料理は好きじゃないのと答えてきたが、食べ飽きたという意味だろうか。
夏の暑い間はエアコンのある部屋で寝ているので気が付くと寝室が訳の分からない物置に成り果てる。そんな訳で秋に荷物を片付けるのだが、隠した覚えのない高額なへそくりが発見できたのはともかく、刃の部分が赤黒く錆び付いた見覚えのない包丁が発掘されたのは一体どういう理由だろう。