履 歴 稿 紫 影子
北海道似湾編
カケス 7の5
保君と私が、出入口にぶら下がって居る莚の隙間から、じっと覗いて居ると、その内の一羽が罠の唐黍を狙って急降下をした。
その瞬間、私はハッと息をのんだ。
するとその急降下をしたカケスが、「ギャ、ギャ、ギャ」と、けたたましく鳴き出した。
「オイ、捕れたぞ。」と言って、保君が飛び出したので、「それっ」と私もその後に続いたのであったが、昨日保君が「明日は屹度捕れるぞ。」と言ったとうりに、弓状に絞って仕掛けた柴木が直立に跳ね戻って居て、その先端に結びつけた麻紐に両足を縛られたカケスが、「ギャア、ギャア」と鳴きながらもがき羽ばたいて居た。
「オイ、どうだ捕れたろう。」と、私を振返った保君が、「お前の家に何か空箱無いか、カケスの巣箱を作るんだ。」と言ったので、私は急いで家へ駆け込んで、「お母さん、カケスを捕ったので巣箱が欲しいの、だから物置にある空箱を一つ使っても良いでしょう。」と頼んで、引越荷物に使った莨の空箱を一個持ち出した。
「オイ、この箱でどうだ。」と、私が呼びかけると、「オオ、これは大きいから良い巣箱が作れるぞ。」と言って保君は、雑木の茂みに這入って、萩の木を二十本程切って来た。
「オイ、お前そのカケス足縛った儘で抱いて居れよ、ぶらさげて居ると飛び廻って足を折ってしまうぞ。」と私に注意をしておいて保君は、自分の家から鋸と釘、それに金槌を持って来て、空箱の蓋の面に、萩の木を間隔良く釘で打ちつけた。
勿論、内部には泊木の施設をした。
「此処から餌や水をやるんだぞ。」と言って、萩の木を格子形に打ちつけた左の下の所に、同じ格子形の小さな開扉が、針金の蝶番で細工をしてある所を開けて見せた。
巣箱が完成すると保君は、私が抱いて居るカケスの足から麻紐を解きほどいて、「オイ、此処から入れてやれよ。」と言って、その開扉を開けたので、私は其処から巣箱の中へ、カケスを入れてやった。
窮屈であった足の緊縛を解かれて新しい巣箱へ入れられたカケスは、泊木から下へ、そしてまた泊木へと、しばらくは跳ね飛んで居たのだが、やがて遊び飽きたものか、それとも巣箱に馴れたものか、泊木へ泊って、私達の顔をキョロキョロと見くらべながら「ギャ」と鳴いた。
それまで、そうしたカケスの動向をじいっと見つめていた保君が、懐から紙袋を取出して、中に一杯這入って居た唐黍の粒を巣箱の中へばらまいた。
しばらくはその唐黍の粒と私達の顔をキョロキョロと見比べて居たカケスであったが、やがて泊木から飛び降りて、コツコツと小さな音をたてて唐黍の粒を哺み始めた。
「オイ、これでも馴れたんだぞ。」と言ってから、「おおそうだ、水をやらなきゃ駄目なんだ。」と保君は、自分の家から缶詰の空缶を一個持って来て、それに満満と水を注いだのを、巣箱の中へ入れると、転倒防止のために針金で萩の木の格子に縛りつけた。